第35章 罪と罪 前編
産屋敷の言葉に
透真が足を止めはしたが
こちらには向き直る事はなく
背中を向けたままだった
答えに悩んでいるのか
彼はすぐに答えを返して来ずに
時間だけが
ゆっくりと流れて行く
彼は 透真は……
それを 彼女に強いる事を
彼は後悔はしないのだろうか……と
そう気になってしまったのだ
心優しい 誰よりも心優しい彼が
どうして それを彼女に望むのかと
疑問に思えてしまって つい…
そう聞いてしまっていた
彼の望みは 彼女には酷とも呼べる
そんな望みだったのだから
『全ては、僕の、わがまま……なので。
彼の執着が……あげはなのに。
未だに僕は生きていて、それでいて
離れられないままでいる……。彼女から…
僕と言う存在が、彼女にとって
あげはにとって、危険でしかないのに』
そう言いながら
こちらを振り返ると
笑った いつもの
お日様の様な穏やかな笑顔で
『やっぱり、わがままですよね?
…こんなことを彼女に対して、
望むのだなんて、おかしな話だって。
お館様もそう思いませんか?』
きっと本当に望みたい
望みは彼にとってそんな事ではないはずだ
彼は そうは言わないが
離れたくないと
側に居たいと…
そう言い出したいと
思って居るであろうその気持ちが
彼の…笑顔を曇らせていて
その 唯一の願いしか…
望む事も叶わないと
そう 彼自身が申し出て来た
それしか彼に選ばせてやれない
自分を恨んでもしまいそうになる
『わがまま…
なんかではないと、そう思うよ?
君がそう望む意味が、
私には、わかるからね。
けど、あげはは優しい子だ。
彼女にそれが出来るかな?』
さっきまでとは違う
朗らかな笑顔に彼の顔が変わって
『出来ます。
彼女は…、優しいだけじゃない。
彼女の強さは、誰よりも
僕が一番知ってますから』