第35章 罪と罪 前編
「その全てを……、
背負わせてしまった。あげはに。
何も……、知らぬ、あげはに……。
私は、それを選んで置きながら。
彼女には、選ばせても…やれなかった…」
「行冥は、
あげはの事を…どう思うかな?」
その言葉に傅いて俯いていた
顔を悲鳴嶼が上げると
静かに産屋敷の目が悲鳴嶼の方を
見ていた ただ静かに見つめていた
悲鳴嶼の目を 真っすぐに
柔らかい穏やかな全てを
包み込むような慈愛に満ちた眼差しで
私の目にも お館様の目にも
見えるのは 只無限に広がる闇だけ
お互いの目には
光を映す事も叶わないが
今お互いの視線が合っていると
そう 感じていた
「……彼女にそれは、荷が重すぎる…と。
私はそう考えずには居られない…」
「そうだね。前の…
あげはには出来なかっただろうし、
それをさせようとは、私も思わないよ?
でも、今のあげはになら……。どうかな?
あの子は優しい子だから、きっと
行冥の話を聞いても、あの子は、
君を責めたりはしないだろうからね……」
産屋敷からの問いかけに
悲鳴嶼からの返事はなくて
そのまま産屋敷が続ける
「あの子には…それが出来る。
それがあげはの、あの子の優しさでもあり。
そして、他の誰にもない強さだ。
少なくても、……私はそう思ってるよ?
行冥…、だから……。本当の事を
教えてあげて欲しいんだ」
「しかし。…例えあげはが……私の罪を
許そうとも、その事実が…消える訳でも
許される訳でもない。私の罪だ…。
罪深い…罪でしかない」
「でも、行冥。あげはに話すのが
憚られると言うのなら……、
あげはと杏寿郎にならどうかな?
行冥の、君の罪も…、あの二人ならば、
受け入れて受け止めてくれる。
そうは、思えないかな?」
「あの二人なら…ば、に御座いますか?」
先程
あげはに教えてあげて欲しいと
そうお館様は仰られはしたが
私の中には 幾分の迷いがあった
彼女には 重責だと そう感じたからだ