第34章 彼からのお土産
今朝 杏寿郎が昨夜の約束通りに
私に差してくれた紅は
いつも 私が差す紅よりも
冴えわたる程に
赤が濃く出るようにして差されて
その濃い赤の中にも
玉虫色の緑が掛かった
輝きを放っていた
「綺麗だ……、あげは。
5年前に見た君もとても可愛らしくて
美しかったが……。今の君の方が…、
その何倍にも美しいと感じるな。
良く…似合っている。その白い羽織りに
赤が……映えて。
つい、唇を寄せてしまいたくなりそうだ」
そう熱の込もった声で
褒め称えられながらも
口付けを強請られてしまって
それに…
彼が私に今朝
紅を差してくれたのは良いけど
同じような事を言っては褒めて来て
褒めて来るだけでは当然に
済むはずもなくて
…もうかれこれ……
すでに 3度ほど
…唇を寄せて来られていて
その都度に
差された紅を
彼自身に崩されてしまって
剥がされてしまって居ては……
小町紅は乾けば落ちにくく
移りにくくなる特性がある紅なのに
こうも崩されて崩されてしまって居たら
塗り足すだけでは
色むらが出来てしまいそうだし
その… 正しくに
乾く暇も……ない とはこの事で
一つで 50回差せるとはあったけど
こうも 差しなおしていてばかりでは
本当にすぐになくなってしまいそうだ
ひとつ……数万もする様な
高価な物なのに…
そして そんな私の心配なんて
目の前の彼は全く
気にも留めている様子もなくて……
嬉しそうでいて
それでいて悪戯っぽい様な
そんな笑顔を浮かべて
こちらを見ていて
「ですがっ、杏寿郎……。
もう、出掛ける……って、
んっ、ちょ、あの、杏寿郎?
聞いておられますかっ、って、やっ……」
「君が…悪い。
その色が似あっているからな…。
君に……、本当に良く似合ってる。
贈って良かった…な」