第34章 彼からのお土産
かつて鏡柱だった頃に身に着けていた
その白地に銀糸の刺繍の羽織りを纏う
あげはの姿は…
ずっとあの時から俺が見たいと思っていた
焦がれ続けていた
あげはの本来の姿で
胸の中に感極まる物があるな
コホンと杏寿郎がひとつ咳払いをすると
「あ、…そのだな。あげは。
今の。いや、鏡柱の君に…。
ひとつばかり…、俺の頼みを
聞き入れて貰いたいのだが……」
「頼み…ですか?
ええ、いいですけど。
何ですか?杏寿郎」
杏寿郎が視線を逸らせながら
自分の頬を掻きつつそう言って来て
「その、君さえ…良ければだな。
今の姿の君を…、抱きしめてもいいだろうか?」
普段なら そんな風にしながら
抱きしめるのに
許可なんか取って来るかな?
さっきは突然抱き上げられてしまって
驚いたんだけども
変な杏寿郎……
そんな違和感を彼から感じながらも
全身で喜びを示している
杏寿郎の願いに頷いた
ギュッと包み込まれる様にして
抱きしめられていると
不意に見えた
彼の表情が少年の様に見えた
ああ そうか……
きっと 彼は今… 5年前の事を
思い返しているのかも知れないと
そんな事を感じながら
その抱擁に身を委ねていると
穏やかで満たされた
表情をしている
杏寿郎と目が合った
一瞬で 穏やかな表情が消え去り
いつもの顔に戻る
「あげは……、構わないだろうか?」
スッと杏寿郎の手があげはの頬に触れて
親指の腹で唇を押さえられてしまった
「君に口付けても?」
「あの、杏寿郎?玄関…ですよ?ここは」
「それは、分かってるが……。
今は、俺と君しか……居ないだろう?
俺は今……、君に口付けたいと
そう思ってるのだが?…許しては
貰えないだろうか?」
今度はそう言いながら
人差し指の腹で
あげはの唇をなぞって行く