第34章 彼からのお土産
そう言って穏やかな表情で
微笑まれてしまっては
それは止してくれとは断れずに
あげはの手で髪に
あんず油を馴染まされてしまった
お互いの髪に馴染ませ終わると
そのまま あげはの身体を引き寄せて
自分の身体に持たれ掛けさせる
あげはが自分の顔を持ち上げて
杏寿郎の髪の香りを確かめると
ふふふと嬉しそうに声を漏らして笑った
「同じ香りが……しますね」
「随分と、嬉しそうだな……あげは」
スリっとあげはが杏寿郎の胸元に
頬を摺り寄せて来て
彼女に気を許されていると
甘えられているのだと実感する
穏やかな熱が…自分の胸に
灯るのを感じる
それに応じる様に
自分の腕を彼女の身体に回して
包む様にして抱きしめて
その時間をしばし楽しんでいると
「杏寿郎…が、
嫌でなければ……その明日も…」
そう申し訳なさそうにしながら
彼女がそう問いかけて来て
「君がそれで、喜んでくれるのなら
明日も明後日も構わないが?
君の手で俺の髪に
それを付けたいんだろう?」
摺り寄せていた頬を
今度はギュウウと押し当てて来て
そうかと思えば ギュッと
両手で俺の寝巻を掴んで来る
「…あの、杏寿郎……。
杏寿郎が……その、
お嫌でなければ……、あのッ…」
強請られている行動は
俺にも十分理解出来ていたし
今しがた 俺も
そうしたいと思っていた所だ
「あげは……、今俺も……
そうしたいと…思っていた所だ……」
そうしてどちらからともなく
唇を重ねた
心行くまで 何度も
「余り…、口付けばかりし過ぎると
腫れてしまいそうか?」
何度目かの口付けの合間に
杏寿郎がそう尋ねて来て
ふふふふとあげはが
口元を押さえながら笑った
「今更…ですよ。もう…
何度しても腫れたりしませんから…」
「そうか。なら…安心して
何度でも出来る言う事だな……?」
「もう、杏寿郎ったら……」
そうは言いながらも
まんざらでもない顔を
目の前の彼女が浮かべていて
「……あげは」
俺の考えていた事を
察してくれていた様で
あげはの方から
俺に… その唇を寄せてくれた