第34章 彼からのお土産
「紅は、お猪口や磁器や貝殻に
塗られている事が多いですが、
どうしても…、かさ張るので。
持ち運びには、懐にも忍ばせられますし。
板紅が便利ですよ。
隊服のポケットにも入れて置けますし
…水さえあれば塗れますから」
「しかし、俺は知らなかった。
紅と言えば、赤い色ばかりだと
思っていたからな!」
そう杏寿郎が
感心したと言いたげに言って来て
紅は赤い物なのに……と
あげはが思いながらも
ある事に気が付いてハッとする
「何を言ってるんですか?杏寿郎は
紅は赤いに決まって…ってもしかしてっ」
あげはが慌てて
その板紅を開いくと
その面は玉虫色に輝いていて
玉虫色の紅は他にもあるが
その輝きの密度と艶やかな艶は
紛れもなく 小町紅の色で
「俺も知らなかったんだ、
この様な色の紅が
玉虫色の紅もあったんだな」
「あの…杏寿郎。
これ…もしや、全て紅ですか?
これも、これも、こちらも…?
それも只の紅ではなくて、
みんな、小町紅だったり?」
「ああ。そうだが?
店の主人がこの紅一つで
色んな色が出せると言っていたが……
ダメだっただろうか?」
はぁーっと
あげはが大きなため息をつくと
「紅一匁(もんめ)…金一匁…。
江戸時代では玉虫色の紅は、
金と同等の価値と呼ばれてましたから。
……これ、
結構いいお値段だったのでは?」
あげはが苦笑いをしながら
杏寿郎にそう言って来て
「…そうなのか?
俺は紅を買った事がないから
相場がわからなかったのだが。
毎日……使う物だろう?
それに…君の紅を、
落としてしまうのは…俺だからな」
「ふふっ…、落とさないと言う
選択肢がない所が、
杏寿郎らしい…ですね。
自分が落とすのを、前提で
こんなに沢山お買い上げに?」
そう言いながら
あげはが その陶器で出来た
入れ物の蓋を開いて
玉虫色の輝きを確かめると
ひとつずつ 布団の上に並べて行く
「可愛らしい、入れ物ですね。
使い終わったら、小物入れに
出来そうです…し」
「…あげは」