第34章 彼からのお土産
「ええ。とても、可愛らしいですね。
このちりめんの巾着袋。
ありがとうございます。
それに生地の色も、私の髪の色ですし。
杏寿郎が、選んで下すったのですか?
嬉しい。杏寿郎、これ。
大切に使わせて頂きますね」
「いや、
…喜んで貰えたのは嬉しいのだが。
それに、それは……店の…、
いや何でもない。あげは。
俺が君に贈りたかったのは、
その巾着ではなくてだな。
その中身の方なのだが……?」
まさか ここまで
この花の形の巾着袋をあげはが
喜んでくれるとは杏寿郎自身も
想像して居なかった事だったので
さすがは 小間物屋の主人だなと
感心もしてしまったのは 確かなのだが
あげははよっぽどその
花びら巾着が気に入った様子で
様々な角度からそれを眺めていて
キラキラと目を輝かせていた
その様子を杏寿郎が眺めていると
あげはがハッと何かを思い出した様だった
中身……と言われて
そうだ 中身 何か入ってる
巾着ばかりに
気を取られてしまっていたから
すっかり 忘れてしまっていた
それも 袋の上からの感触と
その重さから推測するに
何かがこの中に幾つか…入っている様だった
「あの…」
「どうした?あげは……」
「開けて、見てみて…も?」
「ああ。勿論。見て貰って結構だが…。
俺が君に贈った物だからな」
その巾着の紐の結び目をあげはが解いて
その口を開くと
その中に入っていたのは
小さな磁器製の入れ物と
それから細工の施された木製の板紅…
磁器で出来た小物入れも
手毬の様な凝った形をしている物や
平たい物と大きさは同じぐらいだが
色も柄も違っていて
「杏寿郎。これ…、板紅ですね。
板紅は持ち歩けますし…、助かります。
これって…あの時の
馬車でのお話の品でしょうか?」
「ああ、そうだ。その平たいのは
板紅と言うのか……、知らなかった」