第5章 無限列車にて 前編
彼女の肩を揺すって 起きるように促す
「あげは、あげは!起きてくれ!あげは!」
瞼が微かに動いて
パチリと長いまつ毛のついた瞼が開いた
ぼんやりとした表情をしながら
彼女が俺を見つめていた
「槇寿郎…様?…」
「違う!俺だ!目が醒めたか?」
ぼんやりとしていた焦点が定まって
しっかりと視線が合った
「すいませんっ!いつの間にか、
ウトウトしてしまって…鬼、出ましたか?」
「その鬼に、どうやら
眠らされていたみたいだぞ。見てみろ」
杏寿郎に周囲を見るように言われて
あげはが周囲に視線を配ると
客車の様子が
うたた寝する前とまるで違うのだ
あちらこちらから肉肉しくて
生々しい肉塊が見える
ドクドクと血管が脈打つ様まで見える
「うえっ!?な、何コレ?すごい、
気持ち悪い事になってるんだけど?」
説明を求めるような顔であげはが杏寿郎を見ると
「どうやら、汽車に鬼が出るのではなく、
汽車自体が鬼になっている様だな」
「汽車が…、鬼に?そんな事も…、できるの?」
見上げるほどの巨大な鬼や
子供よりも小さな鬼なら
見たことがあるが
汽車になる鬼いるとは…ね
この汽車が鬼になってしまったのか
それか汽車に化けた鬼に乗っていただけなのか?
真相が定かではないがどっちにしても
あまり喜ばしい事態ではない
「目を覚ました所で、悪いが。
少し、時間を稼いでもらいたい。
ここを君に任せたいが…頼めるか?」
スラリ 刀を抜いた杏寿郎に続いて
あげはも腰の日輪刀を抜いた
「それは…、いいけど」
杏寿郎と背中を合わせるように立つと
次々に乗客達に伸びてくる
肉肉しい触手を斬り伏せていく
「君は、あまり戦いに本気になりすぎるな」
「…え、どうして?」
ここを任せたいと言っておいて
本気になるなとは一体
「君の仕事を余り増やさない方法を、
考えたい所だが負傷者が
多く出るかも、しれないからな…」
杏寿郎としても
負傷者が出ることは避けたい事態だが
この乗客の人数と列車の状況では…
まして鬼が この列車なのだから
それは…避け難いと感じているのだろう
「ああ、成程ー。そう言う事ですね」
「君は、話が早くて助かる!!」