第5章 無限列車にて 前編
「君の編み出した、鏡の呼吸。
今までの鬼殺隊の歴史にもなかった
…新しい呼吸だよ」
その様な事に居合わせる事ができて
私も喜ばしいと産屋敷は笑った
「あげは、君にこれを…」
そう言われてお館様から
一枚の羽織を差し出される
白地に銀糸で刺繍が丁寧に施されている
曼荼羅の様な
花にも似た模様が付いているが
その柄は全て異なっている様だった
「君の鏡の呼吸を、
イメージして作らせた物だよ。
受け取ってもらえるかな?」
入隊から1年で 私は柱となった
タイミング良く柱に空席があったのと
運良く 下弦の鬼を倒せたからだ
「これを、私に?…ありがとうございます!
お館様,この羽織に恥じない様、
立派に柱としての務めを全う致します!」
産屋敷の家の門を出ると
炎柱である煉獄槇寿郎に声を掛けられた
「柱になったそうだな。あげは」
「はい!今日から。槇寿郎様と同じ
柱になれるなんて、夢みたいです」
嬉々として答えたあげはに対して
「今日からは、お前も柱なんだ。
俺に様はいらんがな」
「え、でもそうは行きませんよ!
槇寿郎様は、槇寿郎様ですし」
「まあ。好きに呼べ。
頼りにしてるぞ、あげは」
「はい!もちろんです!」
ガシガシと大きな手があげはの頭を撫でた
「良くも、まぁ、あの1年前は、
任務の度に泣いてたお前が。
…柱になる…とはなぁ…」
と嫌味を込めて言ったかと思うと
ふわりと笑った
なんて 穏やかで
優しい笑顔で笑う人なんだろう
まるで 我が子にでも向けるような
そんな笑顔だった
ゴトン ゴトン ガタン ゴトンー
「よもや…、うたた寝してしまっていたか」
竈門妹のお陰で
俺は鬼の術から目を覚ます事ができたが
あげははまだ 夢の中の様だった
すやすやと寝息を立てて 眠る寝顔は
人形の様に愛らしく 美しくもある
これがただのうたた寝なのなら
このまま 彼女の寝顔を眺めていたい所だが…
「あげは、起きてくれ」
彼女を起こそうと声を掛けた時
「槇寿郎…様…」
あげはが父上の名を呼んで
涙をこぼした
彼女は俺の父上と共に柱を
していた時があるが 何故
彼女に夢に…父上が?