第33章 たった一つの揺らぐ事のない
戻るぞと促されるものの
当然 先ほどの
熱い彼の口付けの所為で
動けないで……いる訳で
「うっ、…どうしたも
こうしたもないですよ!
杏寿郎のバカァ。私がっ、今、
動けないの知っててっ
そんな事…を、言う……んっ」
「あまり俺を煽るのは、
良くないぞ?あげは。君は少々……
身体が素直過ぎ…やしないか?」
少し離れた位置に居たからか
風になびいた羽織りの裾を
あげはがきゅっと握って来て
「ううっ、そんなの
知りませんよぉ~っ。
杏寿郎にそうされたから、
こうなっちゃってるってだけですから」
ハタっと彼と視線がぶつかって
そのままジッと見つめられる
彼の視線…
熱を帯びた
視線から変わるのを感じた
「あげは。俺に遠慮は要らんぞ?
もっと…俺に全てを許して委ねては
貰えないだろうか……?
俺はそうされたいのだが?」
それは 彼に
自分が心の内に秘めている葛藤とか
悩んでいる事とかそんな 全てを
曝け出して 欲しいとそう言われていて
私の中にあるそれも 全て
彼は受け入れてくれると…
その上で 支えてくれるのだと
そう 言葉の限りを尽くされれば……
こんなにも 愛されてしまって
私は いいのだろうかと
そう思えて……仕方がない
「それとも……
俺では、役不足だろうか?」
「そんな訳……、
ある訳ないじゃないですか……。
そんな事を私に言うのは、
そんな風に…っ、
私の事を求めてくれるのは…、
杏寿郎だけ……ですよ?」
自分の胸に溢れる
杏寿郎への想いすらも
私は上手く…
…言葉に乗せられないで居て
こんな 返し方しかできないのに
スッと顎に指を添えられて
クイッと顎を持ち上げられて
視線を捉えられてしまうと
「君をそう…求めるのが、
俺だけであるのなら…ば。
それを……許されるのは、
俺だけだろうか?」
杏寿郎の言葉に
あげはがくすっと笑うと
「そうですね…、
そうかも知れません…ね」