第5章 無限列車にて 前編
その人はとても穏やかに笑う人で
すごく気さくで
新入隊士だった私に
凄く親切にしてくれて
「ねぇ、あげはちゃん。
また仕事のない時においでよ?
剣も教えてあげるよ?
あ、もし君が良かったら。
僕の継子にならない?」
「わ、私がですか?
そんなっ、恐れ多い…」
「そ、残念だなぁ。
でも、またお菓子食べにおいでよ」
君ならいつでも 大歓迎だよ
そう言って笑った
ー何度か足を水屋敷に運ぶ様になり
私も水の呼吸を使うので
剣を見て貰っている時に
ふと透真が漏らすように言った
「あげはちゃんの水は、何だろうな?
水じゃない何かに成りたそうに見えるね」
水の呼吸は
いかなる状況にも合わせられる
変幻自在の呼吸…
「水じゃ…ない、ハァ、
…何か…ハァ、ですか?」
木刀で打ち合いをしながらあげはが問いかけた
「そ、君の水はすっごく
澄み切ってて…綺麗だから。
その流れを留めて、波を止めれば
…水鏡になりそうだね」
水の呼吸は動作に合わせて刀を振ると
その水はうねりと流れを作り 波打つ…
その呼吸の通りではなく
流れる水の流れを
留めるように指示される
意識を集中し
水を留めるようにイメージする
ほんの一瞬 水が鏡の様に姿を変えて…
あげはの周囲を包んだと思ったら 消えた
「三上さんっ!い、今、出来ましたよね?
今のでいいんですよね?」
「僕が言ったのは、今のでいいけど、
三上さんじゃなくて」
下の名前で呼ぶように促されて
「と、透真さん…」
「それで、よろしい」
あげはに名前で呼ばれて
透真は満足そうに笑った
フッーー とあげはの周囲が暗くなったかと思うと
場面が別の場所に変わっていた
気がつくと 私は
お館様の前に傅いていた
お館様のお顔には
まだ病がそこまで広がっておらず
「あげは。…君も、これで柱だね。
これからの柱としての、
君の活躍…、期待しているよ」
そうだ… 私は 柱になったんだった
透真さんに教えて貰った 水の呼吸から
水を留めて水鏡を作ることから生まれた
水の呼吸の派生の 鏡の呼吸で ー鏡柱ーに