第33章 たった一つの揺らぐ事のない
それを指し示すかの様に
いつの間にか…自分の目から
次から 次に
零れて来る この涙を
流してるのは 私なのに
この…涙…は
まるで 目の前の…貴方の涙の様に
感じて…しまうのは…… どうして?
杏寿郎…… どうして なの?
ねぇ… どうして……
「杏寿……郎…ッ、私は……彼を」
「言わなくて…いい、
何も…言わなくていい。
他の誰よりも、
彼にとって…君に否定される事が
何よりも…辛いだろうからな…!
だから、言わないでくれ……あげは。
俺の為にも……、そして彼の為にも
…言わないでくれ…あげは」
でも…杏寿郎 それは
貴方は 私に……言っているのと
同じ事…なんだよ?
杏寿郎… が言ってる事は……
私に いいって
言ってるのと同じなんだよ
私に彼を… 想っていてもいいと
言っているのと ……同じなんだよ…ッ
それなのに……
彼の為……なのか
杏寿郎の為……なのか
それとも… 私の為…なのか
それすらも 分からない
誰の為でもないし
誰もの為なのかも 知れない……
でも……
それすらも 分からないのに
酷く… 分かりたくもないとさえも
思えて仕方ない……
曖昧にして置きたいとすら 思えて
自分の目から零れる涙は
それを 責めてさえも 居るかの様にも
感じられて……来て
そっとあげはの頬に杏寿郎が手を添え
あげはの目から零れる涙を指で拭った
温かいあげはの流した涙が
杏寿郎の指先を濡らす
指に触れたその一滴一滴が
少しずつその熱を失って
そして…冷えて行く感覚を
自分の指先で感じていた
涙で潤んだ 彼女の瞳が
俺を静かに見つめていた