第31章 その名を継ぎし者
杏寿郎のらしからぬ言葉に
義勇は自分の耳を疑った
迷うことなど 未熟者がする事だと
そう一喝されると思っていただけに
「お前、
……本当に煉獄か?以前の煉獄なら……」
「確かに。以前の俺なら、冨岡。
君を一喝していただろう……、
だが……宇髄と話をして、あげはから
彼についての話を聞いて…。
俺は思ったんだ。
彼は…皆に好かれていたのだなと」
そう言って杏寿郎が
二ッと笑った
その笑顔は太陽の様に見えた
以前は 明朗快活を絵に描いたような
そんな 真夏の太陽の様な
そんな 笑顔だったはず……
だが どうだ?
今の煉獄から 感じるのは
今までの煉獄には無かった
まるで春の日差しの様な
そんな柔和さを彼から……感じる
変わったのか 変わったんだ
あげはが煉獄と出会って変わった様に
煉獄も……また 変わったんだ
「似てる…かも知れない」
「似ている?誰と誰がだ?」
「煉獄、お前と……師範の話だ」
「冨岡。俺と彼とは
真逆のタイプじゃないのか?」
熱く燃え盛る炎と
穏やかな流れを称える水
赤と青
静と動
明朗快活と温厚篤実
こうして並べると
真逆な様にも感じるが……
「……確かに、真逆なのかも知れない
だが、似ている……と、俺は
そう感じた……それだけの事だ」
そう 例えば……
自然と人を……惹きつける様な
多くの人に慕われる そんな所とか…な
「後…、あげはが
可愛くて仕方ない所とかは……
師範もお前に負けてなかった…、がな」
一瞬 その義勇の
嫌味も若干入った様な
そんな冗談めいた切り替えしを聞いて
杏寿郎は驚いてしまった
冨岡にとって 彼の師範である
三上透真と対峙する事は
元から精神的に繊細な冨岡には
重荷にしかならないかと…思っていたが
まぁ その証拠に道場の真ん中で
うずくまっていたのだろうが
彼は 彼なりに……
それを乗り越えようと……しているのだな