第31章 その名を継ぎし者
その誰も居ない
道場の上座に向かって
義勇は声を張り上げた
「…透真…さん、貴方の答えを……。
俺は…、聞きたい…。透真さ…んっ…」
師範の……
透真さんの日輪刀に重なって見える
在りし日の幻は
ただ ただ 静かに
瞑目したままで
俺の声など まるで全く
届いていないとでも言うような
穏やかな表情のままだった
「師範、…いや、透真さんっ……。
きっと、貴方は今もまだ……、
あげはと……共に在りたかったと、
そう願ってるのでは…ないの……ですか?
俺には、……俺には、
そうとしか、……思えない…。
だって、あんなにも…、貴方は…彼女を」
愛していたの…だから
愛して止まないほど…に
そばに居たいと
共に在りたいと 願うのも
例えそれが
叶わぬ願いだとしても
自分を討ってほしいと
貴方が望んでいる証拠だと
あげはに言われて
この日輪刀を預かった……
だが 俺には そうは思えない
義勇だったら気付くからとは
あげはには言われたが
俺には その答えが見えて来ない
いや 見えて来ないのではなくて
見たくないと俺が
否定しているから見えないの…だろうが
ー『でもさ、義勇。もし…、僕が今でも
彼女を愛してるんだって言ったとしたら。
義勇はどうするつもりなの?』ー
もう 目の前にその声の主の
幻はなくて
そこには 一振りの刀があるだけだった
次の満月に アイツが来る…
アイツの中に……仮に
透真さんがまだ……残っていたとして
その透真さんが
あげはを愛していたとしても…
愛して……いなかった…としても
どうであれども
頭では理解出来ているのだ
そうするしかないのだと
理解出来ているはずなのに
「俺はっ…、貴方…を討ちます」
そう義勇が絞り出すようにして言った