第31章 その名を継ぎし者
透真さんに出来ていた事なのだから
継子である義勇 貴方にもできるはずと
そうあげはに言われた事があった
「俺に…それができると
あげはは、……言いたいのだろうが。
俺に、それだけの事が
……できるとも、思えない」
そんな事が可能なのか……
自分の中にある
過去の記憶を思い返す
確かに 師範は……
水を自分の意のままに操っていた
ー”義勇… ほら 見てよ
こうしたらさ
水 猫みたいじゃない?
かわいいよね?”ー
穏やかな声…
陽だまりの様な空気を纏った人だった
声を荒げて 怒ったりする事もなくて…
俺が出来ないと弱音を吐いても
何度も
”義勇だったら大丈夫、君なら出来るよ”
そう言って 何度も 何度も
俺を励まして 立ち上がらせてくれた
根気強く 何度も
そう 言ってくれた 俺に
師範は 俺が何度も
後ろを向いて立ち止まって
しゃがみ込んでしまう度に
隣で一緒になってしゃがみ込んで
ただ 待ってくれていた
ニコニコと穏やかな笑顔で
急かしたり
怒ったり……せずに
待っていてくれた
俺が 自分の意志で立ち上がるのを……
ずっと… 待って…いて くれたんだ
いつも
「……師…範ッ……」
師範 貴方が居たから俺は……
今日まで…
ここまで これたのだと……
「師範……、貴方がここを出て
俺が……ここの留守を預かり、
貴方の帰りを待って…そのまま
……4年……が経ちました……」
ギュッと自分の膝の上に置いた拳を
義勇が強く握りしめる
自分の中にある
水面に 波紋が… 生まれて行く
「本来なら…、
貴方が居るべき場所であったはず…
鬼殺隊…水柱……、三上透真……。
水柱の名は…、貴方にこそ相応しい。
俺は……、俺には、相応しくない…。
俺には…、貴方の後継になど…っ
到底…相応しく……も、ないのに…」
生まれた 波紋が
静かに胸に広がっていく…のを感じる
あげはは この日輪刀は
俺にしか振るえないと言った
それが許されるのは……俺だけなのだと
鬼殺隊 水柱…… 冨岡義勇……
ただひとり だけなのだと……