第5章 無限列車にて 前編
私服姿のあげはを見て
デレデレ くねくねしている善逸を
汚物でも見るように鼻くそをほじりながら
一瞥すると伊之助が言った
「はん?お前ら、何言ってんだよ?
あげるが何着ても、あげるだろーがよ!
バカじゃねぇのか?」
「いや、いつになったら
名前ちゃんと呼べるのよ!
伊之助、私はあげはだからね?」
「そんなモン、どっちでもいーだろーがよ!」
「あの…、煉獄さん。少しお話を…
させて頂いても?よろしいですか?」
「あ。ごめんね。炭治郎君、
こっち来て。私そっち行ってるから」
炭治郎が杏寿郎と話がしたそうだったので
あげはは善逸達と同じ
向かいの斜め後ろのボックス席に移動する
窓側の席を陣取った伊之助が
いきなり両手でバンバンっと
汽車の窓を叩き始めた
そうそう割れるようなガラスではないだろうが
伊之助の力で叩き続けたら割れるかもしれない
「ぬははっ、ぬはっ、ぬはっ!すげぇー、
主の中すっげぇ!!ぬはははっ!」
「こら、よせって!割れるだろ!ガラスっ」
「ぬははははっ!」
汽車が初めてなのか はしゃいでいる伊之助を
善逸が必死に押さえていた
「善逸君も、常識が備わってたんだ。感心した」
「あげはさんも、感心してないでっ!
こいつ押さえて!頼みます〜!」
「伊之助」
あげはがいつもよりも低く
伊之助の名を呼んだ
ゾワッ と寒気が背中を走った
「んあっ?何だ?今の… あげるか?」
ただならぬ 殺気に似た気配に
伊之助が向き直った
「ちょっと、落ち着いて。座ろうか?伊之助」
と言われて 伊之助は反論する事もなく
ストンと椅子に腰を下ろした
「伊之助は、汽車は初めてなの?」
「お、おお!すっげぇな!!
こんなはぇええ奴は、初めて見たぜ!」
興奮気味に伊之助が汽車の感想を述べると
あげはがふんわりと笑った
先程の威圧感を出してた人物とは
別人のような笑顔だ
「初めてで、嬉しいのはわかるけど…。
他の人の迷惑になるから、静かにね?」
「お、おう…」
その声に善逸は違和感を感じた
いつものあげはの声なのだが
いつものとは違うのだ
不思議な響きのある声に聞こえた
聞いてるだけで心地良くなる声
それに伊之助の様子が変わった
声を聞いて ホワホワしてる様だった
「君は、今、何をした?」