第30章 蝶の入れ知恵とほどほどの戯れ ※R-15
こうして…抱きしめて
頭を撫でていると
彼女の手入れの行き届いた髪の
艶やかで滑らかな感触が
指先から伝わる
そっと手櫛を通すように
耳の裏の辺りから指を指し込むと
そのまま髪の中を通していく
こんな風に彼女の髪に触れるのも
俺だけに許されている
特権…であるのは確かだな
些か俺は…こうした時間を
疎かにし過ぎてしまって居たか…
反省…せねばな
「杏寿郎?考え事…ですか?」
俺の顔を見て
あげはがそう問いかけて来て
その彼女と目が合うと
言いたい事があるのか
一瞬ためらう様な様子を見せたので
「俺に…
言いたい事でもあるのか?あげは」
「あ、あの…、杏寿郎がその…、
お辛いのであれば…
お手伝い…とかを、その」
「はははははは。何の心配かと思えば。
そんな事か、それなら君の手を煩わせる
までもないが、まあ口もだが…。
工藤にも、言われた事だしな」
「私には、話が見えないのですが。
工藤さん…に言われたとは、
どんなお話なのですか?」
杏寿郎…
工藤さんに何を言われたんだろ?
ん?何かとても
嫌な予感がするんだけども
「俺が工藤に
何を言われたか…、気になるか?」
私の考えを読まれていたのか
そう杏寿郎が言って来て
嫌な予感がひしひしとするのは
気のせいなんかじゃなくて…
「あの、もしやと思って
お聞きするのですが…。
杏寿郎は、工藤さんに…、その所謂
夜の事情のご相談をなさったりとか…は
されたりはされてませんよね?」
あげはが杏寿郎にそう問いかけると
「だとしたら…、何か問題でもあるのか?」
何でもないような顔をして
そう彼が返して来たので
杏寿郎がその…工藤さんを
信頼していると言う事は
よくよく分かったのだが……
この彼の口ぶりからするに
ああ もうこれは相談したんだなと
あげはが確信を得るには足りたのだが…
私の手を煩わせるまでもないと…
だとしたら…
「だったら、杏寿郎は一体
誰の手を煩わせるおつもり…で?」