第5章 無限列車にて 前編
「君に…、口付けても…、構わないだろうか?」
突拍子もない申し出に
言われた事が一瞬理解できなかったが
「えぇ!…いっ、今…言います?
それ、…いいくないですよ、嫌です」
「なぜ、断る?」
「なぜもクソもないですし!弁当食べながら、
言うセリフじゃないですから!」
「なら、食べ終わってからなら、良いのか?」
表情こそ真剣…だけど…も
やっぱり この人 ちょっと…バカなんじゃ…
いや ちょっと…天然なのかな?
「い、…いい訳ないでしょーー!!」
はたっ 杏寿郎の声につられて
自分の口から大きな声が
出ていた事に気づいて
あげはが自分の口を両手で塞いだ
コホンと一つ 咳払いをすると
声を顰めて言った
「ここは、汽車の中なんですよ?
他の人もいますし、良い訳ないじゃないですか」
「良いのか?」
「いや、私は、ダメって言ってるんです」
「君の言葉通りに取るのなら、
ここじゃない2人きりの場所なら
…しても良いことになってしまうぞ?」
何をどう 私の言葉を解釈したら
そうなってしまうのか?
「都合のいい解釈を、しないで下さいよ。
と、とにかく、ダメな物はダメですから!
あんまり、…私で、遊ばないで下さいっ」
そうは言われても
彼女の反応が可愛いので
つい…からかいたくなってしまう
今の自分の仕草や表情が
どんな物なのか知らないからだな
これで 当の本人は断っている
つもりなんだろうが
そんな物にはなっていない ー危険ーだ
しかし こうも頑なに拒まれると
流石に俺も心が折れそうになる
だが こうも拒まれると
どうしても近づきたくもなる
どうすれば 許されるのかが
知りたくなるのだ
彼女は上手く
俺との距離をはかっているつもりだろうが
俺は そんな事はどうでもいい
はかるつもりもない
逃げられると 追いかけたくなる物だし
もっと 近づきたいと思うのだ
そう言う 感情を掻き立てられて
しまうのだ それも酷く
だから 彼女は ー危険ーだな…