第5章 無限列車にて 前編
無限列車に乗り込んで席に着くと
彼は早速弁当を食べるつもりの様だった
「もう食べるんですか?」
「ああ、腹が減ってはなんとやらだしな!
君は食べないのか?」
「もう少ししたら頂きますよ。
お茶、どうぞ」
「うむ、すまない。気が利くな」
杏寿郎がお弁当を開いて一口
口に入れると
「うまい!」
そう言ったかと思うと
二口 三口と箸を進めて
「うまいっ!これは、うまいな!!」
「東京駅の牛鍋弁当は、有名ですものね」
「そうだったのか!
知らなかった!うまい!!うまいっ!」
美味しそうに食べるなぁと
ある意味感心しながら
杏寿郎の顔を見ていると
「俺の顔がどうかしたか?
見惚れてもらっているのなら、
喜ばしい限りだが?米粒でもついていたか?」
冗談ぽい口調で尋ねて来た
「…見惚れてなんて、いませんよ。
気のせいです」
じっと近い所で顔を見つめられて
息が詰まりそうになる
「君は、整っていて、
可愛らしい顔をしているな!」
「ちょっと、変な事言ってないでッ、
お弁当食べてたらいいでしょ、もう」
食べる手を休める事もなく
悪ぶれた様子もない
「そう恥ずかしがることはないぞ!
何度でも言おう!」
「何度も言わなくて、いいですから」
ぎゅむっ 杏寿郎の口をあげはが手で覆った
塞いで置かなければ
また褒め殺されてしまいかねない
「もぅ、やめて下さいっ…」
そう言って 恥ずかしそうに
恥じらう顔が見たくて
つい 悪ノリをしてしまっているのだが…
やはり あげはは可愛らしいな…
杏寿郎が徐に箸を置いたかと思うと
自分の口を塞いでいたあげはの手を外し
その手を指で絡め取る
「なぜだ?俺は思った事を
言っているだけだが?」
こんな感じのやりとりを
今日だけで何度もしている気がする
「…手、離して…っ」
離す所か ぎゅっと指に力を
入れて握られてしまう
「あまり、つれなくしてくれるな…、なら…」
スルッと握られていた手を不意に解放される
「君に…、口付けても…、構わないだろうか?」