第27章 あの人の声と音の波に重ねる呼吸を
「杏寿郎、もう終わったんですか?」
「ああ、これの事か?」
そう言って
自分の手の上にあるひょうたんを
こちらに見せて来る
そこには割れたひょうたんがあって
もう彼は呼吸の圧縮を体得した様だった
「やはり、私の見立てた通りでしたね。
杏寿郎なら、すぐだと思ってました。
ああ。お返事が遅れてしまいましたね、
ええ、そうですよ。このバラはあの時
杏寿郎から頂いたあのバラです……」
ふぅーんと言いたげに杏寿郎が
腕組みをしてこちらを見ていて
「で。君は……直接俺には
礼を言ってはくれないのだな」
「お、お礼ならあの時に言いましたよ!」
杏寿郎があげはのすぐ後ろに座ると
腕を後ろから回されて
私が抱えているガラスの器ごと
包み込まれてしまう
「あの……、杏寿郎。
怒ってるの?直接…お礼を、
言わなかったから…拗ねてる?
…その、ありがとう、ね?」
俺の機嫌を損ねたと思ったのか
申し訳なさそうにしつつも
照れくさいのかぎこちなく
彼女がそう言って来て
「バラ、……大事にするね。
嬉しかったから、凄く」
ギュッと後ろから
杏寿郎に抱きしめられる
「別に俺は、怒っても拗ねてもないし、
バラなら、また贈るが?」
そう言うと
ううん とあげはが首を横に振った
自分の腕の中にある
その一際鮮やかな赤を称えるバラに
視線を向けると
「もう、バラの花でしたら。
一生分貰っちゃいましたから。
十分ですよ?杏寿郎」
「一生分……か。一生分と言うには
些か少なすぎるのではないか?
ならば、毎日君にバラの花を
1輪づつ贈ってもいいが?
どうだろうか?」
「ま、毎日、ですか?バラを……?」
でもなんで 毎日1輪ずつなんだろ?
杏寿郎なら100本とかでも
普通に買って
持って帰って来そうだけども
「一生分に相応しい、
バラを贈りたいのだが?
君にそうしてもいいと許されているのは
俺だけだろう?」
一生分ってどれぐらいなんだろう?
一年分なら365本だろうけども
一生分って例えるくらいだから
持ちきれない位のバラを
贈りたいと考えてる……って事?