第27章 あの人の声と音の波に重ねる呼吸を
玄関と部屋に飾りたかったから
ガラスの器は
ふたつ欲しかったんだけども
片方のガラスの器に
バラバラの花びらだけにした
ポプリを割と雑にある程度入れると
あげはがその花びらに鼻を近づけた
うーん
やっぱりちょっと まだ早いなぁ
精油とは予め馴染ませておいたけど
もうちょっと置いて寝かせて置いた方が
いいんだろうけども
ガラスの器も買って貰っちゃったし?
沢山ポプリはあるから
香りが熟成して馴染んだ頃に
そっちの分と交換しようっと
「ああ。
それならすぐに飾れるし、いいかも」
もうひとつの器はちょっと凝った
加工のしてある 深みのある器で
花束を包む 包みの様な
形になっている
あのお店に行って良かった
ここまで自分の思って居る
イメージに近い器があって助かった
その器の中に 茎を残して
ドライフラワーにした
バラを並べて生けて行くと
108本目の特別なバラの
シリカゲルを使って
ドライフラワーに加工をした
他のバラのドライフラワーよりも
一際鮮やかな赤をしたバラの花を
その中央に配置する
そしてガラスの器に
赤いリボンを掛ける
真っ赤なバラの花束に
真っ赤なリボンなんて
何とも杏寿郎らしいと
思わず その時の事を思い出して
顔が綻んでしまった
あの時 私がこのバラを
シリカゲルに埋めたと言った時の
杏寿郎の顔を思い出すと
悪い事をしてしまったかと
思ってしまったのだが
こうして ほとんど
色が褪せる事もなく
ドライフラワーになった
このバラを見ていると
そうして良かったなぁっと
そう思えて来る
そっとその花束となった
ドライフラワーを
ガラスの器ごと
自分の胸に抱きしめると
「ありがとう、杏寿郎……」
「礼には及ばないが…、
何の礼だ?あげは。
ん?その器は昨日の、
それに、そのバラの花は……もしや」
「え?あ…杏寿郎…?」
上から杏寿郎の声が降って来て
あげはが見上げると
そこには杏寿郎が立っていて
腰を屈めてこちらを覗き込んでいた