第26章 傷跡の理由の裏側
「それに、…母上が……。
人から受けた恩は返しなさいと……、
母上が常々仰っていた。俺は君に命を
救われた、だから俺は…それに相当する物を、
君に返す義務があったんだ。だから……」
そう 母上は
常に 仰っておられた
幼い俺に 何度も言い聞かすように
スッと瞑目すると
その母の言葉を杏寿郎が自分の
記憶の引き出しから
引っ張り出して 思い返す
ーー いいですか 杏寿郎
人から受けた恩には
どんな例え 小さな物であったとしても
必ず 返さねばなりません……
それは巡り巡って
必ず 貴方の元に返って来ます
杏寿郎
ですから 貴方は
受けた恩を 受けたままにするような
その様な人には なってはなりませんよ? ーー
義務がある と言った彼の言葉が
どうにも引っかかってしまう
私があの時
彼と初めて出会ったあの
5年前の夜に
私が 彼の命を救ったから?
彼は自分の命と等しい物を
私に返そうとしているって事……?
あの列車での 彼の
杏寿郎の話を聞いてて思ったんだけども
どうにも彼の母親の言葉は
彼の中で絶大な存在感を放ち
それだけに留まる所を知らずして
彼の価値観の構成にかなり重要な
礎となっている事は確かなようだった
そして この言葉もまた
私が聞いたのではないから
どんな意味合いを真に持つの言葉なのか
私には推測するしか出来ないのだけれども……
煉獄杏寿郎と言う人間は
その言葉を言葉以上に
信じすぎてしまう
囚われてしまう傾向に
どうにもあるようだから
「でも、だからって、好きでもなんでもない
只の命の恩人と結婚するんですか?貴方は」
彼が酷く 私との結婚に執着していたのも
元を正して行けば 彼の母親が言っていた
彼への教えに由るものだったのか
この言葉を聞けば
その理屈に理解ができるし
彼が何度も私に求婚していた理由も
その言葉に基づく物だったのかと
安易に想像する事も出来る