第26章 傷跡の理由の裏側
「知らなかった…。
そんな事があったのだな…」
「あ、槇寿郎様からは、あの時の話は、
……お聞きになられてませんでしたか?」
「父上はあまり何も、任務の詳細な話等は
俺達に先入観を持たせてはいけないと、
考えておられたのか。ほとんど……、
こちらが、聞きたいとせがんだりしても
お話にはなられなかったからな…」
私が鬼殺隊に入隊して間もない頃
槇寿郎様の輝かしいばかりのご活躍は
他の隊士達の噂話に良く上がっていたのに
彼はそれを知らないの…か
彼が鬼殺隊に入った頃には
すでに槇寿郎様は……
あ でも だとしたら…
「だったら、年上の婚約者を
見つけて来たとか…そんなお話も?」
お聞きにはなられてませんかと
あげはに尋ねられて
あげはの口から
その話が出て来たと言う事に
違和感を感じた
その話は 一度だけ
何の前触れもなく
父上から聞かされていた話で
それから何年経とうと父上から
その話がどうなったかと言う事等は
一切聞くこともなく
当人に父上が一存で交わした
口約束だと仰っておられたから
もしかすると 先方側が
乗り気ではなかったのではないかと
立ち消えた話なのであればと
あえてそれについて
こちらからは触れる事もなく
そのまま過ぎて来たのだが……
「私は、その時に鬼殺隊を辞める様に、
槇寿郎様から勧められまして……、
その誰かの嫁にでもなればいいと。
でもそれは、私には負い目がありましたので、
出来ないと槇寿郎様に、お伝えしました所…」
あげはの言葉に
あの悪夢の様な夜の真実を思い出す
そうあげはが囚われて来た
あの夜の真実は
そうでは なかったのだ
あの夜に
彼女は汚されてなどなかったのだ
だが 俺は
彼女にそれをその真実を
未だに伝えられないままで居て
あげはが自分の胸に手を当てて
そっと瞼を閉じる
その時の事が
まるで現実の様に
彼女の瞼の裏には
映っているのだろうか?