第26章 傷跡の理由の裏側
「ここの所に、薄く
…染みがあるのって。わかります?」
そう言って ここからだとあげはが
指した部分に染みがある様には
俺の目には見えないが
目を凝らすとほんの微かにだが
色調に違いがあるように感じた
「ああ、そう言われるとそうかも知れんが、
それがどうかしたか?」
「これ、私の血の跡です。
10年前の、この怪我をした時の」
あげはが自分の右の膝を袴の上から
擦りながらそう言って来て
情事の時に俺が気付いて訊ねた
彼女の右膝の大きな古傷についての
話だと言う事に気付かされる
「私がまだ、新人隊士だった頃……、
炎柱だった槇寿郎様と共に
…任務に当たった際に…。
右足に大怪我を負った私を、麓まで
槇寿郎様がおぶって下さって」
「父上が…、あげはを?
そうだったのか…知らなかった」
父上とあげはは
共に柱をしていたのは知っている
実家で 彼女と父上が
話をしている時の雰囲気で
そこはかとなくには
察してはいたが……
かなり前から 関りがあったのだな
彼女自身も父上には
助けてもらったからとは
言ってはいたし……
父上も彼女の過去を知っていた
でなければ… あの時
あの列車で眠っていたあげはが
父上の名を呼びながら
涙を流すなんてことは
あり得ないだろうしな
父と娘の様な そんな関係だと
あげはは前に言っては居たが……
「私が、羽織が汚れてしまうと
槇寿郎様に言いました所、
自分の身の心配をしろと、逆に、
お叱りを受けてしまいまして…。」
あげはが羽織についた
薄い染みを指先で
そっと なぞりながら続ける
「でも、その任務に同行していた他の隊士は、
皆……残念な結果になってはしまいましたが。
あの任務に槇寿郎様がご同行されてなければ、
きっと、私は
ここには居なかった…と思いますので」
そうか 5年前にあげはが
鏡柱のあげはが
俺の命を救った様に
10年前に 父上が
炎柱だった 父上が
あげはの命を… 救って下さっていたのか