第23章 いつかと昨日の口約束
「三十二面 鏡面っ 等分!」
キィン キィン
三十二枚の鏡が更に倍の枚数となり
六十四枚の小さな鏡が
あげはの周囲を螺旋階段を
描く様にして 取り囲んでいて
スッとあげはが瞼を閉じて
呼吸の乱れを整えると……
杏寿郎があげはとの
稽古の約束に遅れを取ってしまったと
急いで稽古着に着替えて中庭に向かうと
そこにあった光景に
思わず息を飲んでしまった
あげはは一体 何をしているんだ?
これは…鏡の呼吸なのか…?
スウ…とあげはが薄く目を開くと
杏寿郎はその目を見てハッとした
あげはの左の眼……
鏡の呼吸を使っているのなら
あの目は銀色のはず……
あげはの左の眼……
今は桃色に染まっている
あげはが天に向けて
木刀を振り上げると
その連なった小さな鏡が
木刀の動きに合わせて
鞭のように連なって行く
蜜璃ちゃんの日輪刀と
私の日輪刀と形状が違う
だから あの呼吸の再現は
難しいと思っていた
でも こうすれば…あの形状を
私の日輪刀で再現出来る
日輪刀の性質を鏡に映せば……
鏡の部分も日輪刀と同じ性質となる
「鏡恋(きょうれん)の呼吸
鏡恋のわななきっ!」
あれは……甘露寺の呼吸か…?
いやこれは まずいっ……
ビュンッと鞭のように
しなりながらあげはの
木刀の先から続く連なった鏡が
地面へと伸びる
「炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天」
あげはの放った型を
昇り炎天で受け止める
受け止めきれず
消えなかった剣撃が
俺の隣の地面を抉った
「あげはっ!君は俺の
屋敷の庭を、破壊するつもりか?」
「え?あ、いや、…今。
初めて完成したのでっ、ハァ、ハァ…っ」
呼吸が 乱れている…のか?
一つ型を 放っただけなのに?
その場であげはが崩れるように
膝を付いたので
その体を杏寿郎が支えた
「どうした?どうしてそんなに、
君の呼吸は乱れているんだ?」
明らかに体に負担が掛かっているのは
確かだ…彼女の身に何が起こっている?