第23章 いつかと昨日の口約束
「杏寿郎さんも、こっち派でしたか?
今度から、半分ずつにした方がいいですか?
私は、できたら、葉は要らないんですけど…」
はっきり 要らないと言ったな
「なら、君が食べたい方を食べるといい」
「いいんですか?はい、嬉しいです」
と言ってにっこりと笑ったので
ほうれん草の葉を食べるか
茎を食べるかでこんなに喜ぶのも
彼女らしいと言えばらしいのかと
そう思うと同時に俺は彼女の
食べ物の趣向についても
知らない事が多かったのだと気が付く
「そう言えば、君が好きな食べ物も…
俺はあまり知らなかったんだな」
「いいじゃないですか。知らなくても。
これからずっと、一緒なんですから、
これから知れば。ね?」
これから ずっと 一緒……か
何気なく本人は 言ったのだろうが
あげは…は 全く
俺は彼女のそんな所を
愛おしいと感じてしまうし
この瞬間を 時間を
幸せ……なのだと感じてしまう
「なら、教えてくれるか?君の事をもっと、
俺の知らない君をもっと知りたいが…?」
「だったら、先に準備をして、
中庭でお待ち頂いても?
私は、片付けをしたら、参りますので」
「片付けを任せたら…いいと思うのだが?」
あげはの言葉に杏寿郎が
眉を顰めて
その顔を見て あげはも
同じ様にして眉を顰めると
「そうも行きませんよ?
私がそうしたいんです」
全く あげははこうだと
思った事に関しては
俺の言う事を聞くつもりはないな
まぁ彼女がそうだったからこそ
俺の命がここにあるのだが…
「着替えるのだろう?女性の方が
支度に時間が掛かるだろう?なら
俺がこれを台所まで運ぼう……、
でないと、君がそうするからな」
「屋敷の主に、その様な真似を……」
させる事は出来ないと
あげはが渋い顔をするので
折り合いをつけて それぞれで
自分の膳を自分で返す事にした
勿論俺のその行動に
屋敷の使用人が驚いたのは
言うまでもなく…なのだが
「あげは。君は先に戻って
準備をしておいてくれ、
俺は少し用がある」