第23章 いつかと昨日の口約束
「聞いてもいいか?」
「何でしょうか?」
「どうして、君は台所に居たんだ?」
「どうしてって、朝食の支度を……」
「しなくていい。うちには、使用人が
居るんだ、任せておけばいい。
君がそうしてくれたいと思う、気持ちは
ありがたいが、今は、その時間も惜しまれる。
もっと、別の使い方があるはずだ……」
それはもっと
彼との戦いまでに
残されたしばしの時間を
朝の稽古や
杏寿郎と過ごす時間に
充てて欲しいと言う
杏寿郎の考えなのだろうが
「だから、ですよ」
「だから?何がだ?」
「だから、こっそり、あんな面倒くさい
真似してまで、それをしに行ったんですよ。
だって、普通に提案してたら
断るでしょ?杏寿郎は」
「それに、君が俺の為に味噌汁を
作ってくれるのは、全てを終わらせた時の
楽しみに取って置こうと思っていたんだが?」
そう言ってふっと杏寿郎が
笑みを浮かべたので
やっぱり あの列車で彼が私に言った
私の作ったサツマイモの味噌汁が飲みたい
の話は
そう言う意味だったんだと
改めて認識してしまった
「ああ。それは知らず知らずに内に
申し訳ありません、
今朝にご用意をしてしまいました。
前に、杏寿郎が、そう言ってらしたので」
あげはの言葉に杏寿郎が
ああと声を上げると
「あの時、列車で君に俺がああ、
言ったからか?君の作った、
さつまいもの味噌汁が
飲みたいと言ったからな。生憎、今は
さつまいもの時期ではないが…。
その時期の楽しみにしておこう」
「え?ご用意しておりますよ?
杏寿郎。さつまいものお味噌汁。
東京駅の近くの大きなデパートなら
サツマイモ買えますから、取り寄せました」
ふっと影が降りて来たと思ったら
杏寿郎に
後ろから抱きしめられてしまっていて
そのままギュウと強く抱きしめられる
「あげは。……嬉しいのだが?
それも凄く、嬉しいんだが」
「あ、でもですね。私謝らなくては
ならない事もございまして……、
その味噌汁の事で」
「何を、君は謝りたいんだ?」