第23章 いつかと昨日の口約束
私が台所で何をしていたかなんて
見てたんだから知ってるだろうに
「それでしたら、先ほどご説明しましたが?
調理中に指を負傷された方がおられたので、
縫合処置を施しておりました……」
「それは、俺も見ていたから知っている。
俺が聞きたいのは、そうじゃない。
君がなぜ、俺にバレない様にして
寝床をわざわざ夜明け前に抜け出して、
台所に居たのかと聞いてるんだが?」
「………それは」
杏寿郎の視線から逃れるようにして
あげはが視線を逸らせる
それに さっき 囁いた言葉
”隣に君が居なくて 寂しかったのだが” とか
そんな事…言う?
同じ敷地に居るでしょうがっ
貴方の屋敷に居るんだから
部屋に居なくたって そのっ
隣に居なくたって… 気にしなくても
いいのに…… いいのにっ
杏寿郎は…その…
「あのっ、杏寿郎。怒ってる?」
そう言ってしまってから
しまったと思って口を塞いだが
もう言ってしまってるから遅くて
屋敷の使用人さん達の前では
主である彼を立てて 呼び捨てには
しないで置こうと思ってたのにっ
つい 言ってしまった
いつもの癖で…
「別に俺は、怒って…は、いないが」
そう言いながら
今度は杏寿郎の方が
私から視線を逸らせて
ムッと少しばかり口を尖らせると
それを隠すようにして手で覆った
それから決まりの悪そうにして
彼からは想像の付かないような
小さな声で
「す、少しばかり……、拗ねているだけだ」
「杏寿郎さんっ、
なっ、何を……人前ですからっ」
その杏寿郎の様子につられるようにして
あげはも恥ずかしくなってしまって
尻すぼみになりながらそう返事を返した
「お食事を、お部屋に
ご準備させて頂きますので。お二人で少し、
ばかり、お庭でも歩かれては?」
春日がそう気を遣ってくれたので
「ああ。春日の言葉に甘えて、
そうさせて貰おう。あげは…」