第20章 炎柱 と 鏡柱
「あげは、君が俺とそうしたいと
言うのであれば。俺もそれには、
いつでも応じるが。その、あらぬ
方向へ解釈できるような、
言い回しはよしてくれないか?」
杏寿郎の言葉にあげはが
顔を顰めると
「そっちは、
頼まなくてもしてくれる…でしょ?」
と語尾を小さくしながら言って来たので
「それも、そうか。言うまでもなかったな。
君が望むのであれば、
そっちもいつでも応じるが?」
そう冗談を言うと
あげはが鋭い視線をこちらに
一瞬だけ向けて はぁとため息をつくと
「ねぇ、杏寿郎」
「今度は何だ?」
「私に稽古を付けて貰っても?」
「それは断る。君に俺が稽古は付けられん。
君のその実力は確かな物だし、俺が君に何かを
指導する事はできん。手合わせなら可能だが……」
「いえいえ、それは違いますよ。杏寿郎。
私は、貴方にある型の稽古を付けて頂きたいので」
「いや、それは構わないが。それより
さっきのあれは?雷の呼吸と炎の呼吸を
掛け合わせたのか?あの型は初見だったが、
俺の知らない物がまだあるのか?」
「私の知らないのも、あると思いますよ」
あっけらかんとした口調で
あげはがそう答えて来て
自分でしておいてその返事も
どうなのかと杏寿郎は考えてしまったが
だが 幾らでも
その場の戦況に応じた
呼吸の掛け合わせが可能なのならば
前に父上が仰っていた様に
彼女が男だったのなら
それこそ 最強の柱にでも
なれるのではないかと 確信すら得てしまうが
だが女だからと言って
現在の9柱の 柱に
何ら遜色を示さない様な
そこまでの実力を有して居ながら
当の彼女はと言うと
今 自分の鏡柱としての
羽織に袖を通す事すら
憚られている様だった
彼女は知らないのか?自分が
物凄い剣の才覚を持っていると言う事を
全く自覚していないのか?
「複合呼吸(ふくごうこきゅう)ですよ。
二つの異なる呼吸を、同時に行う事です。
誰にでも出来ますよ、全集中の常中ができれば
呼吸の応用ですから……」
「確かに君がそう言うのなら、それは呼吸の
応用なのだろうが。
残念だが、俺は炎の呼吸しか使えないからな」