第17章 理由 後編
早く用意して荷物を纏めないと
杏寿郎さんの所へ行くんだから
ん? 帰る……になるのか?
だって 今日から炎屋敷が
私の家になるんだから
そう言えば…あの列車で
杏寿郎さんが言ってた通りになっちゃったな
炭治郎君とあのふたりが杏寿郎さんの
継子になって 私がそれを手伝うと……
他の身の回りの物と一緒に
風呂敷に一度 琥珀糖の瓶を包んで
縛ってしまってから 思い直して
包んだのを解くと
「最後に……、もうひとつだけ」
そう言って もうひとつ
口に入れた時に
前にこの部屋で
杏寿郎さんに琥珀糖を食べた後に
口付けた時の事を思い出してしまって
琥珀糖の味のする 甘い 口付け…
杏寿郎にされる
甘い口付けを思い出してしまって
ここを出る
5日前にした濃厚な方の口付けを
更に思い出してしまって
まるで……
この琥珀糖の様に甘い…
その口付けを…思い返してばかりいて
きっと 彼のくれる 口付けは
こんな 琥珀糖の様な
甘い 甘い 口付けではなくて
きっと もっと
熱くて 情熱的な 濃厚な物に違いなくて
ここの荷物を纏めて
馬車に乗って
彼に会ったら…と
その口付けを 期待してしまいながらも
その先も 期待してしまって
「やっぱり……怒られてもいいから、お守り…
貰っといたら良かったの…かな?」
そう漏らすように
あげはが呟いた
ーーーーーーー
その頃
炭治郎 善逸 伊之助の3人は
蝶屋敷を目指していた
その理由は 傷の経過観察の為だ
でも それはあくまで名目上で
此処へ向かう前にしのぶさんには
お互いに気を遣ってもいけませんからと
あげはさんが戻る前に
蝶屋敷へ一旦 戻る様に言われていたからだ
煉獄さんの様子が
この数日おかしいのは
炭治郎から見ても明らかだったし
少しでも 力になれたらと声も
何度か掛けてみたが
煉獄さんには煉獄さんなりに
思う所があるようだった
「炭治郎。
炭治郎の所為じゃないって、気にしすぎっ」
俺が考え事をしていたのを
音で感じ取ったのか
隣を歩いていた善逸が声を掛けて来た
「善逸……、善逸は優しいな。ありがとう」