第17章 理由 後編
あの汽車の中で これのお礼を言った時
私が味の感想じゃなくて
見た目とか色の感想ばかり言うから
杏寿郎さん 変な顔してたな……と
その時のやり取りが 頭に浮かんで来て
実は…正直な所
貰っておきながらアレではあるのだが
私は 琥珀糖の味は
あんまり好きじゃなかったりする
甘いばっかりな 味だから…
持っていた琥珀糖を
自分の口に入れる
甘さが口の中に広がって
その甘さで満たされていく
きっとこれを贈られた時の私は
自分がこんな事になるとも
思っても居なかっただろうなぁ……
でも この琥珀糖を貰ったから
お礼を返したいって
私が思ったのは事実だし?
そのお礼を渡すのに
しのぶちゃんがお館様に話を付けてくれて
そのお礼を渡すために私は
あの列車に乗る事になったんだから
きっとあの列車に乗ってなかったら
今の私は こうはなって居なかっただろう
きっと 杏寿郎さんとも
恋仲なったりも していなかっただろう
だとしたのなら……
あげはがその瓶を机から
赤子を抱き上げるようにして
自分の腕に取ると
ギュッとその瓶を抱きしめる
その琥珀糖の瓶を
かざすようにして持ち上げて
下から見上げると
色とりどりの琥珀糖がキラキラと輝いていて
「じゃあ、全部……この琥珀糖のお陰…?」
私と杏寿郎さんを繋いでくれたのは……
この 琥珀糖だったんだ……
この恋の きっかけになったのは
この琥珀糖であるのは 間違いなくて
味こそは……
好きにはなれそうにもないけど
でも……
前に杏寿郎さんから
好きな食べ物を聞かれた時に
色々あって答えられなかったんだけども
これってひとつに絞る事ができなくて
もし また 聞かれたら
その時は
「琥珀糖だって、言おうかな…?」
だなんて そんな事を考えていた
抱えた瓶からもう一つ
琥珀糖を取り出すと
あげはが口にそれを入れて
「やっぱり、甘いな……」
これをくれた頃の私は 杏寿郎さんに
随分と悪態ついてたからなぁ……
今も 今で
肝心な事は内緒にしてしまって
やっぱり 私は 駄目な女だなぁと
自覚してしまう