第17章 理由 後編
その内容にあげはが目を通す……
そこに書かれていたのは
「こ、…これっ…しのぶちゃんっ!
このカルテっ…」
彼に三上透真に対して
胡蝶カナエが解離性同一性障害の
治療を行っていた経過が残されていた
このカルテに残されている
治療の経過の記録が事実なのだとしたらっ…
自分の心臓が
脈打つ……拍動を
痛みにも似たくらいに強く感じて
ムカムカとした 吐き気の
様な物まで 催してくる
そのカルテを持つ 指先が震える…
自分の指なのに手なのに
上手く ページがめくれなくて…
「誤診です。私の姉は……、
胡蝶カナエはずっとそれを、
貴方に告げるか否か悩んでいました」
誤診……
いくら優秀な医者だって
時として判断を見誤る事はあるのだ
起きてはいけない事ではあるが
医者と言えども 人なのだから
誤診は 起こり得ない事ではないのだ
「このレントゲンが撮影されたのは、
そのカルテの日付から、1年以上
経過してからの物です。隊内に結核者が出て、
接触者のみに行ったレントゲン撮影ですから…」
けど
逆を返せば
透真さんがその隊士と接点が無ければ
本来なら撮影する予定のなかった
レントゲンと言う事になる……
それが無ければ
カナエがこれが誤診であると
気が付く事も無かったはずだ……
その後も
彼に対して 同様の治療を続けていたはずだ
ジギルとハイドの様な
相反するふたつの顔を持つ 彼に
「解離性同一性障害への治療は、
面接法と催眠療法による
複数の人格の統合化……」
あげはがポツリと漏らすように呟いた
「でも。彼等は、
統合していい存在ではなかったんです!
本来ならば…。すいませんっ、あげはさん。
姉が……誤診さえしなければ、こんな事には、
ならなかったかもしれないのにっ、
貴方は今も…、透真さんと
居られたかもしれないのに…」
今も 彼と
透真と居られたのかもしれない
しのぶのその言葉からは
彼女の深い自責の念が伝わって来て
きっと カナエちゃんが
自分の事を責めたように
それと 同じ様に
しのぶちゃんも 自分を責めていて……