第16章 理由 前編
禰豆子は煉獄さんに
髪の毛を結って貰ってから
煉獄さんにすっかり懐いてしまって
「んー!んんっー♪」
今日も髪の毛を結って欲しいと
髪紐をギュッとその手に握って
杏寿郎に差し出した
「そうか、なら、こちらへ来るといい」
「んっ、…?ムムム……?」
じぃーっと杏寿郎の顔を
禰豆子が注視していたかと思うと
その杏寿郎の腫れた頬にそっと
自分の手を当てた
少し腫れて 熱を帯びていた頬に
ひんやりとしたその手の感覚が心地いい
竈門少年の妹なのだ
きっと本来のこの少女も
心優しい少女なのだろう
そっとなでなでと頬を撫でられてしまって
自分でも自分が情けなくなってしまう
竈門妹の髪を結うと
これでいいのかと彼女に尋ねた
こっちを見て 竈門妹は
心配そうな面持ちをしていて……
その澄んだ瞳を曇らせてしまって
申し訳ないと思ってしまった
竈門少年にも 我妻少年にも
そして……竈門妹にも 俺は
心配を掛けさせているな
あの時…
宇髄に言われた言葉を思い出してしまって
この夜が 明けてしまえば
もう あげはが戻って来ると言うのに
俺の心は こんなにも
落ち着きのない事になっていて
自分で自分が情けなくなってしまう
俺が彼女の言葉を
……宇髄の言う様に
彼女の本心を
受け止めてやらねば
ならないのに
自分で自分に それが出来るのかと
不安になっている……
俺が迷えば あげはが迷う
お前は迷うなと宇髄が言ったが
迷わせる原因を話して置くだけおいて
ほとほと 宇髄も
人が悪いように思えて 仕方がない
俺は 自分で自分が
信じられなくなりそうだ
こんなにも 自分が
どうしようもない位に
情けないと不甲斐ないと
感じた事なんて無かったのに
彼女の事になると
こうなってしまうのは……
俺が彼女を
あげはの事を…
疑っているからか?
いや そうじゃない
あの時の彼女の言葉に偽りはなかった
俺と共に生きたいと
彼を討つのだと言った言葉は
紛れもない本心だったのに
そして 俺の中にある
彼女を想う気持ちにも
偽りなどないのに
お互いの想いが通じているだけでは……
済まないの…だな