第16章 理由 前編
無言のままで
道場に入って
向か合わせに正座をする
あげはが布に包まれた
一振りの刀を義勇の前に静かに置いた
じっとあげはの瞳が
真っすぐに義勇に向けられていて
いつものあげはとは違う
威厳さえも感じる
言うのであれば 気迫だ……
それでいて 存在感……
それはまるで……
柱……だ
今のあげはは
あの羽織こそ着ていないが
かつて 鏡柱だった時のあげはだ
ー 鬼殺隊 鏡柱 仁科 あげは ー
「鬼殺隊水柱…、冨岡義勇」
静かにあげはが義勇を呼んだ
いつもの呼び方ではなくて
元 鏡柱として
いや 違うな
師範と……してか…
あの後 透真さんが行方不明になった後
しばらくの間だけ
俺はあげはの継子だった事がある
あげはは継子を取らなかったから
後にも先にも
あげはの継子は俺だけだ
あげはが俺の師範だったのは
実質 二月にも満たない時間ではあったが
俺とあげはが師弟関係にあった事
これは俺とあげはだけしか
知らない事
「はい、師範」
「義勇、貴方に…これを」
床の上に置いた包みを
あげはが開いて
その中の日輪刀が姿を現した
その刀を見て
義勇は呼吸を忘れたかのように
息を詰まらせた
見間違えるはずがない
これは 透真さんの
師範の日輪刀……
「ーーーっ!こ、この刀は……っ、
どうして、これがここに?」
いつになく取り乱した様子の義勇と
対照的にあげはは落ち着き払っていて
「私は、義勇。貴方にこそ、
この刀は相応しいと思ってる。義勇。
これで、…この刀で、彼を討って!
私と一緒に」
「あげはっ!それは受け取れない。
俺にはそれを振るう資格がない!
それにそれは、……あげはが
持っておくべきだ!透真さんの為にも」
いつになく大きな声で
口調を荒げて義勇が言った
きっと 透真さんも……
そうして欲しいと 望んでいるはずだ
だって あの人は…
揺れてる
俺の心が…
揺れているのが解る