第16章 理由 前編
本人は何の自覚もないのか…?
だとしたら 相当危険だ
煉獄は一体何を考えてるのかと
疑いたくなる…
俺はそう言うのに
鈍いと言うか疎い方だが
今のあげはを見ていると…
もう何年も姉として見て来たのに
只の女にしか
一人の女性にしか…
見えなくなりそうにも感じられるのに
こんな全身から
ほとばしる様な色香を放ってる
あげはをひとりでうろうろさせて置くなど
「………言語道断だ」
とポツリと呟いた
「皺っ!」
ぎゅっとあげはが義勇の眉間に寄った
皺を伸ばすようにして人差し指を当てた
「…っ、何をする?あげは」
「考え事?義勇は昔から、考え事すると、
黙り込んじゃって
ここにすっごい皺出来るから……」
そう言ってその部分の
緊張を解きほぐすようにして
グリグリとマッサージする
「それよりも、あげは、
用があったんじゃないのか?」
そんなやりとりを
している内に水屋敷に着いた
水屋敷……
こうして足を運ぶのは
随分と久しく感じて
ここは透真と一緒に過ごした
思い出のある場所だった
「うん、義勇に渡したい物があってね。
道場で……いいかな?」
「ああ、それは構わないが……」
わざわざ
道場で渡したい物が
あげはにはあるようだった
今 改めてあげはの顔を見て
さっきまでは
その色香の部分で見えてなかったが
気が付いて……しまった
あげはの瞼が腫れていたから
きっと 泣いていたのだろう……
ざわざわと
自分の心にある水面が
揺れ始めているのに
義勇は気が付いていた
「あげは、……泣いていたのか?
目が腫れてる」
「義勇……、聞き流して、くれる?」
「承知した…、あげはがそう望むのなら」
「怒られちゃった。蜜璃ちゃんにも、
宇随さんにも。私が、ちゃんと本当の
気持ちを杏寿郎さんに話さないから……」
「ひとりで、抱え込まなくていい
……そう言われたのか?」