第16章 理由 前編
この少年の優しさを目の当たりにして
急に俺は
気が付いてしまった
あげはは 優しい
彼女が俺に何も言わないのは
きっと 彼女が俺を…
俺に気を遣ってるからだ
俺は まだまだ だな
「俺は、不甲斐ない男だな」
そう杏寿郎が漏らすように
誰にも聞こえない様に言った言葉は
善逸の耳には届いていた
自分を叩き上げて
傷ついた心を
叩いて 叩いて
立ち上がらせて
真っすぐに生きて来た様な
そんな音がする この人にも
そんな風に 迷う事ってあるんだな
そんな事を善逸は考えていた
「我妻少年」
不意に名前を呼ばれて
善逸が杏寿郎の方を向くと
杏寿郎が善逸の方を見ていて
「俺に、何か用ですか?煉獄さん」
「いや、竈門少年もそうだが、
俺は、君も負けてないと思うぞ?」
そう言われても
俺には何の事なのかさっぱりだ
目の前にいる
黄色い頭の我妻少年には俺の言葉が
理解できてい無さそうな顔をしていたので
「君も、優しいのだなと俺は言ったんだ」
「煉獄さ…ん、俺はっ、そんなんじゃ」
「何、恥ずかしがる事はないぞ!…………な」
語尾の言葉は小さな声で言われたから
でも ちゃんと俺の耳には聞こえていたので
善逸はどうにも居心地の悪い気分になって
むず痒い感じがしてしまった
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その日の夜になって
入浴をして寝る支度を整えていると
パジャマに着替えていたはずの蜜璃は
隊服に身を包んでおり
「もしかして、蜜璃ちゃん、今からお仕事?」
「うん。ごめんね、あげはちゃん。
明日の夜までには戻れると思うから」
「ううん、いいの。気にしないで、
蜜璃ちゃん気を付けてね」
「ありがとう。あげはちゃんっ!
じゃ、行ってくるね!」
そう言ってあげはに手を振って
蜜璃が家を後にした
蜜璃ちゃんから教えて貰った
壱の型と弐に型をおさらいして置きたいし
私の日輪刀の色の出方からして
使える恋の呼吸の型は 3つ
それに 私には
他にも
間に合わせないといけない事があるし