第16章 理由 前編
煉獄さんが炎屋敷に帰って来たのは
お昼過ぎの事だった
「れ、煉獄さんっ!その顔、
どうなさったんですか?
とにかく、冷やして下さいっ!
凄い事になってますよ?」
俺の左の頬が腫れ上がっているのを
竈門少年が見て 慌てて井戸の水で
手拭いを濡らして俺の頬に当ててくれた
「……っ」
「すいませんっ、痛かったですか?」
炭治郎の手からその手拭いを受け取ると
自分で自分の頬を押さえた
煉獄さんは宇髄さんと話をしに行ったのに
戻って来たと思ったら
何故か左の頬が殴られたみたいに腫れていて
「あん?どうしたんだよ?
ギョロギョロ目玉っ!その顔、殴られたのか?」
と言葉を全く選ばない伊之助が
杏寿郎に尋ねた
「ああ、そうだ。殴られたんだ。
まぁ、俺も殴り返したがな」
そう言っていつもの様に
はははははっと笑ったが
その笑い方がいつもと違うのは
善逸の耳のは明らかに分かったし
「何か……、あったんですね。
俺はそれは聞きませんが……」
炭治郎の言葉を聞いて
ふっと杏寿郎が笑った
「竈門少年、君は……優しいな」
「煉獄さん、あのっ、煉獄さんみたいな人に
その、失礼だとは思うのですが……、
不安な時に不安だって、しんどい時にしんどいって
言うのは、そんなに……いけない事でしょうか?」
「竈門少年っ、君の気持ちはありがたいが、
心配は無用だっ!俺は、柱だからな!」
「煉獄さん、煉獄さんは……、
しんどくはないんですか?その、俺なんかが
……どうこう言える事じゃないのは、
分かってるんですが……、でも」
そうか 確か彼は鼻が利くんだったな
俺の感情のある所も
彼には匂いとして 分かるのか…
それにしても……だ
竈門少年は優しい
彼女と同じ様な事を 俺に聞いて来るのか……
あの時の俺は
彼女に しんどいと 言う事は出来なかった
だが 今の俺は……彼女にそれを
言えるのだろうか?
果たして……
あげはに 彼女に
彼の事を聞く事も出来ない俺は……
とんだ 臆病者だな…… 恥ずかしい限りだ
「大丈夫だ。しんどくは、ない!
心配をかけてしまって、すまないな!」