第3章 琥珀糖の
ここで言う お前は?とは
“お昼には少し早い時間だが、
早めに昼食にしようと思ってるが
お前は食べたのか?”と言う意味だ
「そうか、そんな時間になってたんだ。
ううん、まだだけど」
時計の針は11時の少し前位だった
「なら、どうだ?」
“これから俺は お昼にしようと
思っているが、お前も一緒にどうだ?”
と言う意味なのだけども
相変わらず義勇は 少し…いや大分
言葉が足りない気がする
私は昔から彼の事は知っているから
ニュアンスから何となく
彼の言いたいことはわかるんだけど…
「そうだね、一緒に食べようか」
「ああ。…俺が持とう」
あげはの手にあった荷物を
ヒョイっと持ち上げて取り上げる
「あ、待って」「何だ?」
「義勇、手、ちょっと良く見せてみて」
「手がどうかしたのか?」
杏寿郎は少し離れた所から
その様子を見ていた
建物の陰で 相手の女性の姿は
ハッキリとは見えないが
随分と親しい
間柄ではあるように見えた
あの 冨岡が普通に会話をしている…
余り表情に喜怒哀楽を表さない冨岡が
心なしか 嬉しそうな表情をしている
「よもや、意外だったな。
冨岡もあんな表情をするのだな」
これ以上見ているのも 失礼になるなと
その場を離れようとした時
すれ違い様に会話の内容が耳に入った
「ほら、手、怪我してるよ。義勇」
「これぐらい、かすり傷だ。
どうとでもない」
「ダメなの。手は大事にしないと」
しのぶちゃんのお薬は良く効くんだよと
義勇の手に出来ていた
小さな傷に擦り込んで行く
「はい、これで大丈夫」
「すまない、あげは」
「義勇は、何が食べたいの?お昼、
何にする?」
「あげはが、決めるといい」
「どうせ、義勇は聞いても、
鮭大根しか言わないだろうけどもさ
同じ物ばっかりじゃダメだよ?
栄養が偏るから…」
「お前は、口うるさいな」
「え?何か、文句でも?」「何も」
ざわざわと自分の胸の中が
ざわめいているのがわかる
彼女が冨岡と親しいのも…
別におかしくはない
冨岡は一時期 先代の水柱の
彼女の亡くなった婚約者の
継子をしていたと
冨岡本人から聞いたことがあったからだ
当然 先代の水柱の婚約者だった
あげはも
水屋敷には頻繁に出入りしてただろうし…