第3章 琥珀糖の
「それでは、俺は失礼する」
そう言って 杏寿郎がしのぶに背を向けて
歩き出そうとした所に
「あ、そうそう。
彼女…喜んでいましたよー」
クルッと 背中を向けていた
杏寿郎が向き直ると
「そうか!それは、本当か!」
「え、ええ」
「それは良かった!」
「あー、後、お礼がしたいと
言っていましたよ?」
「しかし、それでは
礼をした意味がないっ!」
礼に礼を返されてしまっては
元も子もないと言うものだ
蝶屋敷にしのぶが戻ると
あげはは藤の花の家に薬を届けに
出かけてしまっていて留守だった
そのまま 家の人に
一泊するよう勧められて
今日は帰れないと 鴉だけが帰って来た
次の日
あげはが戻るとしのぶから
お礼をする機会を用意したと告げられた
「え?本当に…?」
しのぶちゃん 丁度いい機会が
あるって言ってたけど
仕事が早いな
とぼんやりと感心していて ハッとする
「ああ!だったらこんな事
してる場合じゃないや、
買い物っ、行ってくる!!」
「行ってらっしゃーい」
しのぶに見送られ蝶屋敷を出た
お礼の準備をしなくては
あげははさつまいもを求めて
東京駅の近くのデパートの
食料品売り場を目指していた
シーズンではないのだ
大きな店にしか売ってないだろう
時を同じくして
杏寿郎は東京駅を目指し移動をしていた
少し汽車に乗る前に
腹ごしらえでもしてから行くかと
思案している所に
通りを行き交う 人の流れの中に
見知った顔を見つけた
同じ柱の 冨岡義勇だ
名前を呼んで呼び止めようとして
ハッと気がついた
あの冨岡が1人じゃない…
あまりと言うか
殆ど誰かと居る所を見る事がない
一緒に居るのは女性か?
いや 冨岡だって
健康な成人男性なのだ
彼も寡黙ではあるが
際立って整った顔立ちをしているし
恋人 くらいいても…おかしくはない
「あげは、どうした?1人か?」
お礼の材料を買い出ししていると
偶然 義勇に出会った
「うん、そうだよ。義勇は?買い物?」
「いや、俺は、…買い物じゃない。
少し早いが、昼にしようかと…お前は?」