第15章 それぞれの いとま
義勇が屋敷から出ると
一羽の鴉が義勇の肩に止まった
その足には手紙が括り付けられており
「手紙か……、そうか」
カサッ……
鴉の足に括り付けられていた
手紙を外すと中に目を通した
手紙の差出人は
同じ柱の胡蝶しのぶからだった
「胡蝶か、珍しいな」
短い要件のみを伝える手紙で
”三上 透真”について
話したい事があるので
蝶屋敷まで来て欲しいと言う内容だった
胡蝶が何故
透真さんについて話をするのか
「透真……さん」
俺にとって
あげはが姉の様な存在であるように
胡蝶にとってもあげはは
姉の様な存在だった
そして 俺にとって
透真さんは……師範でもあり
兄の様な存在でもあった
あげはには 共に彼を討つと言ったものの
自分の中にはまだ 迷いがある様に
義勇には感じられた
俺は……出来るのだろうか?
彼に 透真さんに
剣を
刃を向ける事が…
スッと過去を懐かしむように
義勇が瞼を閉じた
義勇の記憶の中にある彼は
いつもお日様の様な
穏やかな笑顔ばかりだ…
そして 彼に刃を向ける事は
きっと俺以上に
あげはには辛いに 決まっている
まるで 人が変わったかの様に
師範は変わってしまった
そして 俺もまた
胡蝶と同じで
その 変わってしまう 透真さんを
あげはから離す事が出来ず
おかしいと感じて居ながらも
それを止める事が出来なかった
最後に残ってる 記憶の中の透真さんは
氷の様な 冷たい 凍てつくような
笑顔を浮かべていた
カァーっと鴉が
返事を急かすようにして鳴いて
「今から向かうと、胡蝶に伝えてくれ……」
と言う義勇の返事を聞いて
バサバサと義勇の肩から飛び立っていった
もしかしたら
寛三郎が胡蝶に伝言を伝える前に
俺の方が先に
蝶屋敷に着いてしまうかもしれないが
寛三郎が飛ぶことが出来て
手紙を運んでくれている内は
俺は彼と……もう少し
相棒を続けようと
その鴉が小さくなって行く姿を
見上げながら
義勇は考えていた
自分の心の中に
小さな波紋が生まれて
それが静かに
大きな波紋へと姿を変えて
ゆっくりと心に広がって行くのを
義勇は感じていた……