第14章 束の間の いとま
「竈門少年には、金平糖を渡すとも聞いているぞ?」
そう言って杏寿郎が笑った
金平糖を…俺に?
あげはさんが…?
「そう…ですか。それをあげはさんが……、
金平糖は禰󠄀豆子の……妹の好物なんです」
「そうか、金平糖は竈門妹の好物だったのか」
炭治郎の言葉に
杏寿郎はあげはが前に列車の中で
俺の好物を知って 喜んでいたのを思い出した
きっと 彼女には
自分じゃない誰かの 好物を知るのも
それを記憶する事も
堪らなく 愛おしいと思って感じる
事…なのだろうな
そう思いを馳せていて ハッとした
目の前に居た 竈門少年が
今にも 泣き出しそうな顔をしていて
「竈門少年?」
「今は、禰󠄀豆子は鬼だから、自分で話も
出来ないし、金平糖を食べたりも、出来ません
……でも。俺が何気ない会話で言った事、
人間だった禰󠄀豆子が、好きだった物を、
……あげはさんは、憶えててくれた…んですね…、
だから、俺、嬉しくてっ」
「竈門…少年…」
確かに 彼の妹は
今は鬼になってしまっている
鬼になってしまった妹を
あげはが 人として 自分の妹の様に
扱ってくれた事が きっと
竈門少年には嬉しかった……のだろうな
ポンッと杏寿郎の大きな手が
炭治郎の頭の上に添えられる
「竈門少年……」
「れ、煉獄…さん?」
じっと杏寿郎が
真っすぐに炭治郎を見据えていて
「俺は、君の妹を信じる……」
杏寿郎の言葉に
炭治郎がハッとして目を見開いた
目の前にある
竈門少年の目を見つめる
真っすぐで それでいて澄み切った目をしている
強さとそして 優しさを
兼ね備えた者の 目だ……
美しい……な
きっと この少年にも
あげはの見ている世界の様な
美しい世界が……見えているのだろう…な
「煉獄…さん」
「鬼殺隊の一員として、認める。俺は、
汽車の中であの少女が、君の妹が、
血を流しながら人間を守るのを見た!
命を懸けて鬼と闘い、人を守る者は
……例え、誰が何と言おうと、
鬼殺隊の一員だ。胸を張って生きろ」
目の前にあった
杏寿郎の顔が笑顔になって
グシャグシャと
杏寿郎の大きな手が
炭治郎の頭を撫でた
「煉獄さん……、はいっ!」