第13章 湯治編 小さな蜜月 ※R-18
「そん時は、炎の柱の兄ちゃんも
一緒やんな?やったら、
離れ用意して待っとくわ」
あげはと鉄珍の言葉に
杏寿郎はすぐに返事を返せずにいて
「あげは、それに……鉄珍殿まで、その」
いつもになく
歯切れの悪い物言いをしてしまった
「その為にも急いで帰るちゅーんやったら、
隠呼ぶから、ちと待ったってや」
鉄珍がお付きの刀鍛冶に
隠の手配をするように伝えて下がらせる
あげはと杏寿郎が
鉄珍とその場にいる刀鍛冶に
頭を下げて 広間を後にする
その間もあげはは何度も鉄珍に向けて
頭を下げていた
2人がその場を後にして
鉄珍が独り言の様に
「絶対……勝つんやで?あげは」
と呟いた
里の入り口に鉄珍が手配した隠が
待機していると知らせられて
ふたりで里の入り口に向かうと
里の入り口の方に
ひとりの男が腕組みを
しながら立ってるのが見えた
その男が 杏寿郎の方を見ると
こちらの方へ向き直った
「鉄友殿!…なぜ、この様な所に?」
確か 鉄珍殿の話では
鉄友殿は 極端に人を嫌っていたはず
なのに彼は ここに居て
それも 杏寿郎を待っていた様だった
「里を立つと、聞いたからな」
「ああ、今からここを立つつもりだが……」
じっと鉄友があげはの顔を見ていた
「……確か、お前は…鏡柱」
「今は、柱ではありませんよ。鉄友さん。
鉄友さんの、刀は……、
私が責任を持って義勇に託します」
あげはが大事そうに抱えている
布に包まれた一振りの刀
「煉獄、杏寿郎…と言ったな」
ひょっとこのお面の下の
鉄友の双眸が
真っすぐに自分に向けられていた
「如何にも、俺は煉獄杏寿郎だが。
それがどうした?」
「冨岡義勇に伝えてほしい」
「冨岡に?伝言か……?」
鉄友と杏寿郎の間に
ザァーっと風が吹き抜けていく
「三上透真を討った、暁には……
俺に、刀を打たせてほしいと。お前の為に」
「鉄友殿……、貴方のその気持ち。
確かにしかと聞き留めた!
俺から必ず、冨岡に伝えよう!」
その杏寿郎の言葉には何も返さず
鉄友は去って行った
それから隠の手を借りて
里から蝶屋敷へと戻った
次の満月まで 後 半月しかなかった