第13章 湯治編 小さな蜜月 ※R-18
杏寿郎さんは優しい
こう言う所 ずるいとさえ思う
私だって多かれ少なかれ そうされたいと
彼とそうなりたいと思っていたのに
本願叶うのは 彼を討ってからと思って
覚悟をして居ただけに
拍子抜けしてしまった
部分があるのは確かではあるけど…
この人の事だから
今日は無理だと言えば
引いてくれるだろうし?
明日も無理だと言えば
そうしてくれるだろうけど……
咎めるものがあったから
今まで咎めて 踏み止まって来たのに
ここに来てそれを失うなんて
でも 今はむしろ……
自分の中にある 恐ろしい程の
不安を
かき消してもらいたいと願ってしまう
そんな事の為に
杏寿郎さんを 使ってしまって
いいのだろうかと 良心が痛む
彼は 優しい…… それもすごく
「恐らくは、それも彼の計算の内だろうがな。
彼の策略にはまる様で、気に入らないのも
頷けるがな!」
「あの…いいんですか?」
私の右の耳を塞いでいる訳でも
筆談をしてる訳でも無いのに
会話はきっと全て彼も聞いているはずだ
「彼に聞かれてると思うと、気が引けるか?」
それはこの後の彼との秘め事が
秘め事にはならないと言う意味で
「存外、俺も知らなかったが。
俺は……思いの他、嫉妬深い様だ」
嫉妬深い?
杏寿郎さんが…
会話を筒抜けにさせて
まるで聞かれてもいいと言ってるのは
それは まさか…
「君に呆れられるかも知れんがな、俺は…」
右の耳から聞こえないように
あげはの左の耳に口を近づけて小さな声で囁く
「君は嫌かも知れないが、
…寧ろ彼に聞かせたいくらいだ」
「杏寿郎……さんっ、そんな……」
「そう言えば、
君の返事を聞いてなかったな」
返事と言うと…
ああ そうだ
今夜でいいのかと言う返事だ
「断るつもりなら、今なら聞けるがどうする?」
どうするとは
あくまで決めるのは 私…と言う事だ
もう後からになっては
断れないと言う事で
相変わらず 二択が極端な人だ この人
「君が返事を決めかねているのは、
なんとなく分かるが…断らなかった場合…、
俺は一刻の猶予も与えるつもりはないが?」