第12章 湯治編 刀鍛冶の里にて
「私は…鬼にはならないよ…」
「いいよ、別に鬼になるのは…
その時じゃなくてもね?
君がもうこれ以上は耐えきれなくなって、
鬼になるって言うまで、僕は待つからさ。
慌てる必要もないさ、時間は沢山あるからね」
私の後ろにいる彼の表情は
ここからは見えないけど
きっと笑ってるんだ 冷たい笑顔で…
きっとそれは
この世の地獄のような責め苦でも
私に与え続けるのだろう
それも死なない程度に
それをくり返して
例え手足を切り落としたとしても
鬼になればそれも回復する
命さえあればいいのだ
そして彼が 念入りに準備してたのは
きっと
それが“どの程度”なのかを研究してたんだ
人が死ぬのに至らずに 苦痛を与える方法を
その4年の間に…
「ずっと、あのまま一緒にいたんじゃ…
ダメだったの?」
人として一緒に生きて死ぬのでは
彼は不満だったって事だ
鬼となって こんな事をしてまで
それでは彼には 足りなかったって事だ
「短すぎる…よ、人の一生なんて」
鬼からすればそうかもしれない
瞬きしている間に人なんて成長して老いて行く
「もう、時間のようだね。
次に会う時…楽しみにしているよ、あげは」
そう言って杏寿郎の付けた跡の上に
ガリッと噛み付いて歯形を残し透真は消えた
「あげは!無事か?…何を言われた?」
「杏寿郎…さんっ」
彼女の髪を掬い上げて
彼の噛み付いた場所を確認する
「これは…!」
牙の跡が付いて 血が滲んでいた
ただの影かと思ったが実体に近いのか?
それとも…彼女にも術があるから彼女には
干渉でき得るのか?
いや彼女の耳の鬼の気配
以前よりも強くなっている
彼自身が鬼として成長しているから
血気術もより効果を増している訳か
今なら俺にも感じる事が出来る
邪推かもしれないが…彼が離れているのに
悠長にしている理由が…わかった気がする
あくまで 俺の邪推でしか…ないが
彼の出す音波のような物
恐らく神経系に直接に作用するものだ
以前俺も同じような
血気術を使う鬼を見たからな
だがそれは 俺の見たあの鬼の様な
体の自由を奪い神経系を乱すのではない
彼の使うの能力は
神経を支配すると言うよりは
脳を誤認識させるのに適している
所謂
幻覚や幻聴と言った類のものだ