第12章 湯治編 刀鍛冶の里にて
「透真…なの?」
彼に会ったら
聞きたいことは山ほどあった
私の右耳から聞こえる声に
何度問いかけても答えはくれなかった
どうして
どうして 鬼になったのか
どうして すぐに迎えに来てくれなかったのか
どうして 私の恋人を殺すのか
どうして どうして
どうして 今になって迎えに来るのか…
どうして 今更になって 会いに来るのか
「遅くなるって…言ってたけど、
もう今更…迎えに来てもらっても」
「でも、彼がいなくなった世界じゃ、
君は生きていけないでしょ?」
あげはの耳元で透真は囁いた
ひどくひどく とても優しく
天使のような声で
悪魔のような囁きを
彼の
杏寿郎がいない世界
そんな世界で 私は
今の 私が 何のために生きて
彼と共に生きたいと
やっと願えるようになったのに
生きたいって 一緒に居たいって 誰かと
やっと 望めるようになったのに
ああそうか だからか
彼は…待ってたのか
その時が 来るのを
私にとって彼のような
特別な存在が現れるのを待ってたのか
ずっと 待ってたんだ 透真は
「もし彼が、
命を掛けて君を守ったのなら…君が自分で
自分の命を絶つ事も出来ないだろうしね?」
もし この戦いで
私の身に何かあれば
彼はそれを厭わないだろうし
彼は命を呈しても 私を守ってくれるだろう
さっき 彼に 守らせてはくれまいかと
言われたばかりだったから
杏寿郎が私を命がけで
守ってくれたんだったら
私は自分のその命を 無下には出来ないと
そうか それも…
彼には全てわかっていて
私が自分で自分の命を絶つ可能性も
十分に理解していて
それを出来ない状態にしたかった
最後の逃げ道を塞ぐ 為に……
考えていたんだ ずっと
しのぶちゃんでも私を脅す材料に
十分な存在だって
でも彼がそれをしなかったのは
そうする事でしのぶちゃん自身がそうなっても
私がそうなってもダメだって知ってたからだ
「私は…鬼にはならないよ…」