第12章 湯治編 刀鍛冶の里にて
「そうだな、
なら俺も、湯を頂いてくるとしよう!」
「私は適当に時間を潰しときますね、お夕飯は
あちらの本屋の方でいただく様でしたので」
「そうか。なら、風呂を済ませたら、
そのまま向かうとしよう!
部屋の風呂はいつでも入れるし、
いつもの大きな風呂にでも入るか」
浴衣に着替えるとあげはと共に離れを出た
あげはは湯上がり処で
冷茶でも飲みながら読書をしていると
言ったので俺は温泉に入る事にした
温泉は湯上り処から
少し小高い場所にあるので
案内看板の矢印を追うように
階段を登って行く
杏寿郎が風呂を済ませて
温泉を出ると
男湯の入り口を出てすぐの辺りに人影が見えた
ん…?温泉の利用者か?
男湯の入り口の前に立っていた
男が杏寿郎の方へ向き直ると
「やあ、いい夜…だね。煉獄杏寿郎…君」
この声は 聞き覚えがある
5年前に 聞いた声だ
杏寿郎は 驚きを隠せなかった
まるで気配がない
どうして彼がここにいる?
ここまで巧妙に気配を殺せるのか?
いや 彼はここの場所を知っているのだ
彼女の耳からの情報もある
ここにいるのも
別におかしくはない……か
「三上…透真殿とお見受けするが…
どうして、かような所に居るのだ?」
「居る?
僕は…ここには居ないよ?これは…影だよ」
影?
通りで全く気配がないはずだ
これほどまでの鮮明な
実体のような影を作れるのか
影だと言われなければ
視覚的には気付くまい
だが ここまで早いとは
俺自身も思っていなかったが…
その内何らかの形で
接触はして来ると思っていた
「僕の刀、…義勇に渡すの?」
「あれはもう、お前の刀ではない」
「まぁ、僕にはもう使えないから
どうでもいいけど…、僕は…、君と話をしに
来たんだ。彼女がいない所でね」
「その事に関しては、俺も同感だ!
俺も…お前と話がしたいと思っていたからな」
彼女のいない所で
「僕の血気術がどんなのなのか?知りたい?」
「知りたいと言った所で、
教えるつもりもあるまい
何故、その様な事を聞く?不毛だ」
ユラッと彼を形取っていた物に揺らぎを感じる
この影…水で出来ているのか?
何かを媒体として水で構成されているんだな?