第12章 湯治編 刀鍛冶の里にて
「せやったら、安心やな…。兄ちゃん
勝手ついでに1人、会ってほしい鍛治師が
おるんやけど…。鉄友言うやつなんやけどな…
もう何年も刀打ってないんや」
鉄珍殿の話によると
その刀鍛冶は変わり者の多い里の中でも
とりわけ変わり者の職人気質で
刀鍛冶としての腕は一流の一流なのだが
極端に人との交流を嫌っていると言う
鉄友は集落の外れに庵を構えていた
すぐ隣は森が広がっている
庵には人の気配はない
その奥に広がる森の中に人の気配があった
その気配の方へと目を凝らすと
切り倒した切り株の上に
1人の男が座っているのが見えた
後ろ姿だが彼もまた
お面で顔を隠しており
その毛髪には白髪が混じっている
年は 40代 半ば辺りか後半くらいだろうか
こちらには背を向けて
どこか遠くを眺めているその男の
その手には一振りの刀があった
亀甲を模した鍔 水の呼吸の隊士の刀だ
「俺は、もう刀は打たない」
俺に気がついたのか
正気のない声で鍛冶師が言った
「悪いが、俺は、貴方に刀を
頼みに来たのではない。俺には担当の刀鍛冶が
いるからな、それは…透真殿の日輪刀か?」
透真と言う名前を聞いて
刀鍛冶の男が反応を示した
「水柱…三上透真の日輪刀だ、
俺の最高傑作…」
「見せてもらっても?」
言葉での返答はないが
鍛冶師は無言のままで
その刀をこちらへ差し出して来た
スッと鞘から抜くと 刀身が現れる
見事だ…刃紋の入り具合 反りの角度
判別する術はないが…間違いなく“大業物”
刀匠としてもこれを打った事は
彼にとって相当な自信に繋がっただろう
「素晴らしい…刀だ…。この様な
素晴らしい刀を見たのは初めてだ!」
「だが、…不用な物…だったんだ、
アイツには。3年ほど、前になる…
これが里の入り口の置かれていた」
それはそうだ
鬼は日輪刀は使えない
手に持つ事も不可能だろう
「手入れもされてなかった…かなり長い間…」
これだけの大業物を作って
納めたのにも関わらず
ぞんざいな扱いをされて
つき返されたのであれば
彼が自信を無くしてしまうのも当然の事
「その刀、…俺に預けてはもらえないだろうか?」
「預ける?お前に……これをか?」
杏寿郎の言葉に鍛治師は怪訝そうな顔をした
「お前には、これは使えないだろう?」