第12章 湯治編 刀鍛冶の里にて
その頃
杏寿郎は鉄珍と向かい合って座っていた
「鉄珍殿!今回は急な願いを聞き入れて
頂いて、申し訳ないな!だが、お陰でゆっくり
過ごせそうだ、礼が言いたい!」
「礼なんて、かまへんて。あの子には
悪いことしてもたし、それも入れての分や」
「ほんでや、なんでワシが兄ちゃんの事、
呼んだんか…、わかっとるんやろ?」
お面の下の双眸が
杏寿郎に真っ直ぐに向けられているのを
視覚では確認はできないが感じ取れた
「上弦の鬼…、やったらしいやんか?
ワシも話ぐらい知っとる。
柱…3人分…言うらしいやん?」
「確かに、鉄珍殿の言う通りに、上弦の鬼の
力は柱3人分と言われている!俺が今、生きて
ここにいるのは、奇跡だとも言えよう!
彼女がいてくれたからだと思っている!」
「奇跡なぁ、そうは言うても
…そんなもんは、そうそうあらへんで?」
杏寿郎の言葉を話半分に聞いて鉄珍が返した
「俺が…、あの時死んだ人間なのだとしたら、
これから先は、彼女の為に生きたいと考えている!」
恐らく俺の推測であるが
この里長はあげはの婚約者だった透真殿の事も
知っているだろうし
その後のあげはの事も知っている
そして俺が彼女とそう言った
仲なのも分かってるだろう
何せ俺が あんなお願いの手紙を出したからな
ゆっくり2人で温泉に浸かれる様に
手筈を整えて貰ったしな
「せやったら、あの子より、何があっても
…先、死んだら…あかんで?」
「俺は死なないし!彼女も死なせない!」
杏寿郎の言葉を聞いて
鉄珍が満足そうにうなづいた
お面のせいでその表情は見えないが
笑っている様に感じた
「あの子は、ええ女やさかいに、釣り合う
ような男やなかったらって思っとったけど。
兄ちゃん、えー男やったから。ワシが
何にも言わんでも、良さそうやな」
「ハッハッハッハハ!
それなら心配には及ばない!」
「兄ちゃん、…勝ちや?」
言い方こそは静かだったが
鉄珍の言葉にはそれ以上の重圧を感じられる
相手を討たずに
死ぬのは許されないと言っていた
「無論、そのつもりだ!俺とあげはだけでは
難しいが、皆も手を貸してくれるとの事だからな!」