第12章 湯治編 刀鍛冶の里にて
ある事が気になってその部分を押さえつつ
小走りであげはが洗面所へ向かうと
鏡の前で杏寿郎に吸われた場所を確認する
赤い跡がしっかりと残っていて
「これは、言い逃れが……できないやつ」
それもこんな人目につくような見える所に…
何なの?あの人は 全く
こんな目立つ所に 跡を付けるなんて
「全く、何てことしてくれてんのさ。もう!」
仕方がないので上げている髪を降ろして
ハーフアップにして首元を隠す
これなら髪で跡も見えないと…鏡の前で
角度を変えながら確認する
これで 何とか 誤魔化せるかな?
「それにしても、お洒落な離れだな
洗面台も陶器でできてるし…」
お偉いさんが使う離れって
言ってただけのことはある
室内の調度品もそれなりに
高価な価値のある物で洗練されている
居間とその奥には寝室が繋がっていて
居間には中庭が面している
小さいながらに
趣のある手入れの行き届いた庭だ
「ここから、お庭に出られそう」
縁側から備えてあった履き物を履いて
中庭へ降りてみると
中庭の向こうに
竹で出来た柵で覆われている所があり
その奥から水の流れる音がしていた
その竹で出来た柵へは中庭からも居間からも
行くことはできないようになっていて
寝室に通じている様だった
「あれ?もう一部屋あるのかな?」
寝室からその竹の柵の間にもう一つ
小さな部屋らしき物が見えた
そちら側へ行かないと行けそうにないので
中庭から居間へ戻ると
その奥にある寝室へと向かった
寝室の左手に
その小さな部屋に繋がるだろう場所があり
その戸の前には
少し高めの間仕切りが置かれていて
その奥が裏に回らないと
見えない様になっていた
「ここの奥だよね?
さっき中庭から見えていた所」
間仕切りの裏へ入って
その先の戸に手をかけて開くと
その奥にはヒノキで作られた浴槽が見えた
源泉掛け流しなのか
湯船には豊かに温泉が満ちていて
少しずつ溢れて来ていた
中庭から見えていた竹の柵に
囲まれた所はこの奥に位置する
浴室の奥に更に奥へと続く戸が見えて
その戸に手をかけて開くと
外にあったのは岩で出来た露天風呂だった
「凄い、お部屋に温泉二つもある…!」