第12章 湯治編 刀鍛冶の里にて
「はい!……ありがとうございます。鉄珍様」
「あげは」
改まって名前を呼ばれて
あげはが鉄珍の方を見ると
「ホンマに……ええ、女になったなぁ。
あん時よりも…何倍もな」
「褒め過ぎですよ、鉄珍様。
でも、ありがとうございます」
そう言って あげはが笑った
ほら やっぱり 女は笑顔が一番やな
「やっぱりあげはは、笑とる顔が一番ええわ」
そう言って満足そうにうんうんと頷いた
鉄珍との話を終えて
里の人に案内されて
あげはは里の中を歩いていた
いつも休むのに使っている棟は
雨漏りがして修理中なので今は使えないらしい
今回のお詫びも兼ねて
お偉いさんが来た時用の来客用の離れを
好きに使ってくれていいと言われた
離れと言われているだけあって
他の建物からも離れていて
少しだけ小高い場所に位置しており
周囲を取り囲むように
竹林に覆われ隠されている
趣のある建物だった
「いいんですか?こんな素敵な所、
使わせて頂いて…」
「はい、ご遠慮なく、お使い下さい。
お連れ様はもう、ご案内しておりますので」
どうぞと里の人が離れの戸に手を掛けて
ガラガラと離れの戸を開いた時
「うまい!!」
中から杏寿郎の声が響いた
「うまい!うまいっ!」
そっと中の様子を伺うと中では里の人が
杏寿郎にお茶を出していて
目の前に山積みにされた温泉まんじゅうを
一口食べては うまい を連発していた
「ああ、君か。もう話は済んだのか?」
「え、ええ、終わりました」
上機嫌で両手に饅頭を持って食べていた
杏寿郎が急に真顔になって
じっとあげはの顔を注視する
「よもや…、もしや、君は泣いていたのか?」
そんな目が赤くなって腫れるほど
泣いたりした訳ではないのに
杏寿郎に気づかれてしまった
「いやっ、その…それは事実なのですが…、
もう、落ち着いたので…、大丈夫ですよ?」
「すまないが、二人にしてもらえるだろうか?」
自分の世話をしていた里の者と
あげはを案内して来た里の者に対して
杏寿郎がそう言って下がらせて
腕を掴まれて体を引き寄せられたかと思ったら
杏寿郎にしっかりと抱きしめられてしまった
「俺の前で、泣きたい時は、
泣いてくれればいい!俺の知らない所で
…泣かれるのは、忍びないからな!」